『頭文字D』名勝負列伝27 スプリタートレノ(AE86型) 対 シルビア(S15型)

『頭文字D』名勝負列伝27 スプリタートレノ(AE86型) 対 シルビア(S15型)

 伝説のクルママンガ『頭文字D』の名勝負を選出した「頭文字D名勝負列伝」が、読者のアンコールに答えて復活! 今回は、物語終盤の新旧FR対決で、覚醒した拓海の姿を堪能できるバトルを紹介する!

(新装版第20巻 Vol.569「危険なダウンヒル」~新装版第21巻 Vol.576「藤原ゾーン(後編)」)。

文/安藤修也、マンガ/しげの秀一

【登場車種】

■先行:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。プロジェクトDの神奈川遠征も第3戦と佳境を迎え、この頃の拓海はもはや達観した雰囲気さえ感じられる。スタート前にはリーダーの高橋涼介からペース配分を指示されているが、もはや相手を見るのではなく自分との戦いのような気持ちで、このバトルに臨むようになっている。

■後追い:日産・シルビア(S15型)
→ドライバーは「チーム・スパイラル」の「ゼロ1(ワン)」こと、ナンバーツードライバーの奥山広也。不気味な三白眼に、長い前髪がちょっとキザな雰囲気を醸し出している。愛車は、シルビアとしては最終式となるS15型。エアロパーツやGTウイングで武装するなど、極限までチューニングが施されている。

【バトルまでのあらすじ】

 「プロジェクトD」と「チーム・スパイラル」のバトル、まずはヒルクライムで池田竜次のフェアレディZを高橋啓介のRX-7が下した。悪天候という公道ならではの不確定要素が絡みつつも、啓介のとてつもなく強い精神力がもたらした勝利でもあった。池田自身はこの敗北を納得していたが、次のダウンヒルで登場する奥山は、敗因は「作戦のミスだ」と池田を攻める。そこに奥山の読みの甘さと、公道バトルの奥深さをまだ理解できていない部分が見られた───。

【バトル考察】

 フェアレディZ対RX-7のヒルクライム同様、霧のなかでスタートされたダウンヒルバトル。S15シルビアの奥山は、先行をハチロクに譲った。その理由は、「1本目は後ろで相手にめいっぱいプレッシャーをかけてやりゃあいいんだ。うまくすりゃ自滅に追い込むことだって可能だろ」と、ヒルクライムバトル同様、圧倒的に後追いが有利と読んでいたためだ。

 一方、拓海がスタート前に高橋涼介から言われたのは、「視界が悪いからスタート直後は80パーセント…リズムがつかめてきたら90にあげて…行けると思ったところで全開だ…」。それから、「3分の1以上は持たせるな…それ以内でケリをつけろ…!!」というもの。どちらも、もはや相手のことは眼中にないようで、悲しいことに奥山の気合いの入れようが滑稽に見えてしまう。

 言われたとおり、スタートから80パーセントで走る拓海に対し、奥山は「遅いわけではないが、想像していたほど速いわけでもない…」と、後方から拓海の走りを眺めて、その実力を見誤っている。事実、この時はまだS15シルビアはピッタリとハチロクの後方につけていた。

 霧で先の見えないコーナーに(ギャラリーから見て)全力で突っ込んでいくハチロクだったが、運転する拓海は余裕の表情である。そして拓海がペースを90パーセントに上げると、奥山は徐々に焦りを感じ始める。「テクニックがどうこうじゃない…センスのいい奴だぜ」と、この後に及んで、まだ拓海の実力を甘く見ていた。

 「必ず後半にミスが出る…その時が勝負だ!!」と、心の中で叫ぶ奥山。たしかにマシンは、ハチロクよりS15シルビアの方が圧倒的にポテンシャルが高い。同じ軽量 FR車同士の対決だが、開発年代が15年以上離れているのである。奥山が勝利を確信しても仕方ないかもしれない。

 しかし、濃霧とウェットな路面という状況下で、バトルを終えていた高橋啓介は、「こんなコンディションになっちまったら…もう100%ドライバーなんだよ」と言い放つ。案の定、拓海のハチロクはまたペースを上げていく。コンディションが悪いほど速い、啓介のいう「藤原ゾーン」である。

 そして、勝負は右のヘアピンで決する。視界がギリギリの状態で、奥山もここでアクセルを踏み過ぎてしまうと自爆すると予想して、強めのブレーキングをかけた。しかし、ハチロクは甘めのブレーキで突っ込みすぎた!? かに思えたが……。

 多少強いブレーキをかけても、「そこまでのクルマに仕上げてあるんだ…」と、愛車の加速力に自信を持つ奥山。慌てて操作をミスしないように、コーナーを抜ける。すると、なんとハチロクとの差が広がっている! ハチロクのまるで4WDのような加速に、「何が起こった!?」と奥山も状況を理解できていない。

 そして次のコーナーを抜けた時、もう奥山の目の前にハチロクの姿はなかった。「それは奥山にとって人生観が変わるほどの衝撃」とナレーションで記されている。実際に、これで奥山は戦意喪失してしまいペースダウン。ハチロクがぶっちぎりの勝利を飾った。

 攻め合いの死闘ではなく、一度も2台が抜くことも抜かれることもない。しかし、覚醒した藤原拓海の、安定感のある、それでいてすさまじいほど速い走り。その実力を垣間見ることができるバトルであった。

■掲載巻と最新刊情報

【画像ギャラリー】スプリンタートレノ(AE86型) 対 シルビア(S15型)、両車を写真で見る!(6枚)画像ギャラリー

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