『頭文字D』名勝負列伝11 ミッドシップ使いとの再戦 vs.MR-S編

【バトル考察】

 スタート順はコイントスで決められた。結果、バトルはハチロクの先行でスタート。後方からハチロクの走りを見た小柏は、すぐに前回よりハチロクの戦闘力が上がっていることを実感する。そして、1本目で拓海の進化を見届けてから、2本目でしとめるという作戦を立てた。

 神奈川でバトルがスタートした頃、群馬の秋名山では、拓海の父である文太を、小柏カイの父親が訪ねていた。ここから膠着状態になる息子たちのカーバトルと同時進行で、父親同士のバトル(口論)も始まる。

 人生論、親子のあり方論、子育て論などで話はヒートアップするが、これは自分の子どももクルマ好きになってもらいたいと思っている父親世代読者の胸に刺さる話でもある(笑)。

 この会話劇は充実の内容ながら、長引かず簡潔で、真剣なバトルシーンの意味を損なわないようにしっかり設計されているあたりは、さすが、しげの先生!

『頭文字D』36巻(しげの秀一著)

 ここで、高橋啓介が拓海の走りに関してコメントしている。曰く、「藤原ゾーン」なるものが存在し、それは拓海+ハチロクだから起きる理解できない現象なのだと。兄の高橋涼介も藤原ゾーンに関してこう表現している。「まるで4WDのように加速する…!!」、そう錯覚させてしまうほどのキレの良さなのである、と。

 そして、小柏もバトル中にそれ(藤原ゾーン)を実感することになる。ハチロクが立ち上がりでMR-Sからスッと離れていくのだ。次第に2車の差は広がっていく。これに屈辱を感じた小柏がついにキレる。

 レースで言うなら、決勝の走りから、最速タイムを叩き出すための予選のような走りへのシフトチェンジ。コーナーではイン側に車体を擦るほど攻め、プロらしく左足ブレーキを活用。小柏の執念のスパートが実り、MR-Sはまたもハチロクの後方に迫った!

『頭文字D』36巻(しげの秀一著)

 そして、短めのストレートが終わるブレーキング勝負、遅れに遅らせたブレーキングで一気にハチロクとの車間をつめる。思わず拓海が「何だそれ!? ありえねぇ…!!」と心の声を上げる!

 ……実際に読んでいた読者諸兄はお気づきだったかもしれないが、バトルがスタートしてからここまで、拓海のセリフが一切描かれていなかった。いかにこの小柏のブレーキングが凄かったか。一度でも峠道を走った経験のある読者なら奮い立つワンシーンであろう。

 なおもエモーショナルなシーンは続く。最終局面に入り、拓海は限界を超えたオーバースピードでコーナーに突っ込むのである。もちろん、それはプロの小柏からすれば自爆行為、スピードのミスジャッジである。

 が、しかし。そのプライドからか、小柏も「おまえがクリアできるなら、オレにだってできねえはずはねぇ!!」とこれに追従する。同じ速度、同じライン。しかし、プロが曲がれないコーナーであっても拓海は曲がれるのだった。これも「藤原ゾーン」なのである。

 刹那、MR-Sはスピン。プロらしく、車体をブツけることもなく360度回転して再スタートをするが、もはやバトルの勝敗は決していた。

 全体を俯瞰して見れば、今回のバトル、スタート時から一度も立ち位置が入れ替わらずに終わっている。それなのに、カリスマがかってきた拓海の特性と派手なバトルシーンの描写とのシナジーで、これだけドラマティックに仕上げられているのだから、まったく恐れ入る。

■バトル丸ごと掲載

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『頭文字D』36巻(しげの秀一著)
『頭文字D』36巻(しげの秀一著)
『MFゴースト』9巻(しげの秀一著)
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MFゴースト9巻

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