『頭文字D』伝説のクルママンガ 名勝負列伝03 AE86対RX-7(FC3S)編

『頭文字D』伝説のクルママンガ 名勝負列伝03 AE86対RX-7(FC3S)編

 クルママンガの金字塔、『頭文字D』の名勝負を振り返る本連載の3回目、今回は、秋名のダウンヒルコースでレコードタイムが記録された、名勝負中の名勝負! 作中で一、二の人気を誇る高橋涼介(ついに登場)と、主人公・拓海との白熱バトルを紹介する(第5巻 Vol.44「ドリフト対ドリフト」~Vol.49「火花散らすラインクロス!!」より)。
文:安藤修也 マンガ:しげの秀一

■連載第1回 激闘の「vs.RX-7(FD3S)編」はこちら
■連載第2回 ハンデ戦「vs.シビック(EG6)編」はこち

【名勝負登場車種】

■先行:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。あいかわらず日常はボーッとしているが、峠バトルデビュー後は連勝中。このバトル前になつき嬢との初キッスを済ませ、いろんな意味で大人の階段を登り始めたところ。

■後追い:マツダ・RX-7(FC3C型)
→ドライバーは高橋涼介。群馬エリアで不敗神話を築いてきた伝説の男で、赤城レッドサンズのトップドライバー。実家が金持ちで医大生、さらに超イケメン。連載当時、「せめてオレもクルマだけは……」と、彼に憧れて中古のFCを買った若者も多数存在した。

※今回もスタートでハチロクが先行。ギャラリーからも「意外だ」と声があがるが、涼介の弟の啓介が言うには、「わざと前半先行させて後ろからブチ抜く……いつものアニキのやり方なんだ」だそう。

【バトルまでのあらすじ】

 妙義ナイトキッズのGT-Rとシビックをくだした拓海だが、GT-Rとの勝負の際に、後ろについてきていた高橋涼介のRX-7のことが頭から離れない。そんなある日、高橋涼介から花束付きの挑戦状(←なんともキザ!)が届き、これまでバトルの申し出をすんなり受けてこなかった拓海も、俄然やる気を見せる。そして決戦当日、「県内最高」の走り屋と、こつ然と現れたダウンヒルマイスター(←拓海のこと)との一戦に、舞台となる秋名山には多くのギャラリーが集まった。

【バトル考察】

「『頭文字D』史上、最高のバトル!」と言われることの多いこの勝負を、いよいよ3回目にして取り上げる。「『頭文字D』は、昔読んでたよ」と言いつつ、このバトルを知らない、そんな輩がいたら、そいつは信用しないほうがいい。それくらい面白いし、記憶に残る戦いだ。

 秋名山に集まったギャラリーのなかには、過去や今後のライバルたちの姿も垣間見られ、スタートシーンから熱気をはらんだものとなる。発車寸前に両車がライトを「ウィン」と持ち上げるシーンは、新車でリトラクタブルライトのクルマがなくなってしまった現代では、涙ものの名場面。そして、ひとつ目のコーナーから「スーパー接近ツインドリフト」をかます2台。天才たちが織りなす超絶テクニックは、しげの先生の画力とも相まって、もはや芸術的ですらある。

 ギャラリーが、「(高橋涼介は)本来はあそこまでドリフトを多用するスタイルじゃない」と言っているが、それもそのはず。このバトルに備え、RX-7は340馬力あったパワーを260馬力に下げ、トータルバランスを追求するセッティングに変更していた。馬力を活かして直線で抜くのではなく、あくまでも「テクニックにはテクニック、ドリフトにはドリフトで」挑むという、高橋涼介なりの流儀だった。男前過ぎるぜ。

 ハチロクの走りをコピーして追走するFCに、拓海は精神的に追い詰められていき、いきなり、「負けたくねーけど…俺は負ける」と、主人公らしからぬ敗北宣言までしてしまう。一方、追走する涼介が考えていたのは、自身の公道最速理論についてだ。「走り屋の上級者は、ストレートでもコーナーでもなく、第三のポイントで差をつける」。その理想形に限りなく近いのが、拓海の走りであった。ちなみにこれが、今後のストーリーに大きく影響してくることを、この時、読者はまだ知らない。

 拓海が得意の“ミゾ落し”を披露するもその差は開かず、5連ヘアピンで、ついにメンタル崩壊した拓海がオーバースピードのミス! 痛恨のアンダーステアを喫してラインを膨らませた隙に、FCがインサイドをすり抜けていく。ちなみに、この時点で、コースレコードを12秒上回る驚きのハイペースであった。

 涼介は「一気につきはなして勝負を決める」と意気込むが、ハチロクも神がかり的な走りをみせ、必死でFCについてゆく。しかしここで、ハチロクの走りをコピーしていたことで負荷をおったFCのフロントタイヤが熱ダレを起こし、徐々にグリップを失っていく。ちなみに同作では、今後のバトルでもタイヤが勝敗を分けるポイントとなってくる。多くのクルマ好きティーンたちが、『頭文字D』からタイヤの大切さを学んだことは言うまでもない。

 そのような状況で迎えたバトルのターニングポイントは、長めの直線のあとのブレーキング勝負。インかアウトか。進入では涼介がインをまったく開けず、アウトから並びかけるハチロク。有利なインを抑えたFCが前へ進む……と思いきや、アウトへ膨らんでいく。咄嗟にインを刺すハチロク! クリッピングポイントにつくハチロク! スピードに乗るハチロク!!

 両車4輪ドリフトのままラインが交差する瞬間は、同コーナーで見ていた中里毅いわく「全身にトリハダが立つのがわかった」というほどの迫力で、読んでいても思わず唸り声が出てしまう名シーンだ。

 コーナーから立ち上がるとハチロクが前におり、奇跡のバトルはこの瞬間、幕を閉じた。最後に、FCのブローオフバルブが「プシュア」と抜けて、バトルに心地よい後味を残している。

 クルマ好きにとって、非常に贅沢なご馳走のようなバトル。高橋涼介がミスを犯したわけではなく、抜かれても引き離されず、ついには追い抜いた拓海のスーパーテクニックが凄い。拓海にとっては、この一戦も修練の場のひとつ出あったが、ある種、ここでこの『頭文字D』という作品の、ひとつの頂点が見られたバトルでもあった。

次ページは : ■【1話丸ごと掲載】(第44話)

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