「D」に込められた想いと伝説!! 『頭文字D』人物列伝24【高橋涼介 後編】


 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

 当企画は、同作において重要な役割を果たしたさまざまなキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回も、前回に引き続き、同作品の準主役ともいえるキャラクター・高橋涼介を取り上げたい。赤城山の伝説的ドライバーが立ち上げた計画は、世のクルマ好きたちに何をもたらしたか、その生き様を検証していく。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

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■涼介と「プロジェクトD」

 作品タイトルにある「D」が何を指し示すかについては、最終話を読み返せばわかることだが、作中でこの「D」という頭文字(イニシャル)をチーム名に付けたのは、ほかでもない高橋涼介である。

 しかし「プロジェクトD」というチーム名は、「レッドサンズ」や「エンペラー」、「パープルシャドウ」などと異なり、およそ走り屋らしからぬ響きだが、「プロジェクト」の意味は「計画、事業、研究」となっており、これはまさに涼介が計画した壮大な事業であり、研究の場であった。

 そして、その涼介の想いは、最終的に「プロジェクトD」を“伝説”にまで昇華させた。なぜ“伝説”になったかと言えば、その戦績(全戦全勝)もさることながら、活動期間がわずか1年のみだったということもある。

 理由は、涼介が1年後に走りの道から引退することを決めていたためだ。実際に関東エリアのめぼしい峠道をすべて制覇(地元チームとのバトルでの勝利に加えてコースレコード樹立)したことで、もはや“伝説”というより幻のチームとなった。

 言うなれば「プロジェクトD」は、涼介による涼介のためのチームなのだが、その目的は、「群馬の峠から世界に通用するドライバーを育てる」ことだと本人が語っている。そのために集められたメンバーのベースはほぼ「赤城レッドサンズ」だが、ダウンヒルのエースドライバーとして藤原拓海が起用されるなど、群馬では名うての若者が集まったチームとなっている。

 冷静に考えてみても偉業である。まずはその人を見極める力、つまりキャスティング力。そしてあらゆるチームとのバトルで勝利を収めた戦略や戦術はもちろんのこと、1990年代はまだマイナーな存在であったHPを開設するなど、大衆を意識した行動まで実行している。

「プロジェクトD」の噂は、好事家たちの間にまたたく間に広がり、凄腕ドライバーの走りを見るべく峠にはギャラリーが集まった。プロモーションのあり方としては正しいし、なにより大衆に知られ、支持されたからこその“伝説”なのである。

■人間性と運転技術が見て取れるエピソード

 涼介の年齢がまだ20歳そこそこでありながら、このような“伝説”を、立ち上げから偉業を完遂するまで指揮を取ったことには感心させられるが、大局的な目線を持っていたことにも驚かされる。

 しかし涼介本人にはメジャー志向がなく、自身が抜きん出た実力のドライバーであったにも関わらず、その一番目立つポジションに執着がなく、あっさり啓介と拓海らに譲り、2人を支援するポジションに回る事になる。

 そして涼介のサポートを受けた啓介と拓海は、バトルのたびに高揚感と不思議な安心感に包まれて最高のパフォーマンスを発揮することになる。さらに、彼らのような優秀な人材が集まり最後までついてきたのは、涼介の天性のリーダーたる素質があったからに他ならない。元ライバルという立ち位置だった拓海と啓介の間には、最終的に友情まで生まれることになる。

 高橋涼介の人間的な魅力を端的に感じ取れる非常に短い作品がある。ヤングマガジンGT増刊に掲載された『ウエストゲート2』というこの話は、涼介の移動という部分に限定して見てみれば、山頂からから麓までただ下るだけだ。しかしこのエピソードには、多くの“高橋涼介”が詰まっている。

 まず冒頭での「プロジェクトD」渉外担当の上祐との会話からは、自分が多忙で睡眠時間が取れていないことを差し置いて仲間達のことを気遣う涼介の優しさが読み取れる。

 さらに、上祐の容態が急変すると、すぐに医学的な知見を活かしてどんな行動を取るべきか判断する冷静さと判断力。さらに、彼を助手席に乗せてから山を猛スピードで下っていく際の運転技術を見せつけられれば、作品を読んでいる多くの若者が心惹かれてしまうに違いない。

 白いFC(RX-7)の走りを期待していた読者にとっては、まさに「待ってました!」の瞬間だ。「プロジェクトD」の活動が始まって以降、彼は司令塔に徹していたため、久々のFCの登場で気持ちの昂りを抑えられないに違いない。

 このダウンヒル走行は普段のバトルとは違ってハデさはそれほどないが、たまたま峠にいたギャラリーや、あっという間に抜かれるポルシェ乗り、そして助手席の上祐らの客観的な語りで、涼介が不世出のドライバーであることを改めて知らせてくれる。

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