■頭文字DでスカイラインGT-Rを操った登場人物は?
ただ、恐ろしく強いキャラクターというのは、強いが故に悪者になりがちだ。このR32GT-Rも、恐ろしく速いクルマである。『頭文字D』の序盤では主人公・拓海のライバル、中里毅の愛車として登場した。
さらに、作品終盤では、北条凛の愛車として登場し、高橋涼介ともバトルしている。結果を言ってしまえば、どちらも負けている。これだけの人気車なのに、いつも敵役、そして負けるというのはなぜなのか───。
物語序盤でR32を駆るのは、妙義山のチーム「ナイトキッズ」の中里毅。クールさを装っているが熱血漢で、太い眉毛が力強さを感じさせる。しかし、どこか憎めないヴィランとして登場する。
愛車の R32は、スポーツコンピューターやステンマフラー、レーシングプラグ、トリプルプレートクラッチなどを搭載し、380馬力にパワーアップされている。バランスの良さそうなライトチューンだが、ハチロクと比べれば、圧倒的な速度感を想像させる。
さらにバトル前、毅は「ドリフト走行はグリップ走行には絶対勝てねえ」と言い放っている。以前はS13シルビアに乗っていて、ドリフト走行を熟知したうえでR32に乗りかえた。今では4WDならではの、しなやかでアグレッシブなグリップ走行を身につけ、明確な自信を獲得しているのだ。
■R32 スカイラインGT-Rが描かれたバトルシーン
作中のバトルでは、すべてが現実的に描かれている。非力なハチロクがR32 GT-Rに勝つためのキーとなったのは重量差。すなわち、フィニッシュまでR32のタイヤとブレーキが持つかどうかがすべてであった。
ハチロクは序盤からR32を追走するが、すべてのコーナーで4輪ドリフトをこなし、その差を広げないどころか、むしろつめていく。主人公は神がかった能力を解き放ち、弱者が勝つ、というヒーローものの起源的なストーリーだが、読む方もバトルの終焉まで緊張感とともについつい見入ってしまう。
しげの先生が描く2台のクルマと2人のドライバーの緻密な描写により、バトル中、毅のなかでどんな感情がうずまいているかも容易にみてとれる。彼が喫した敗北は悲劇的ではあるが、GT-Rが失うものは特にない。なぜなら敗因は、毅の心の乱れや葛藤であり、タイヤとブレーキのマネージメントミスだからだ。
R32のコーナーの立ち上がりやストレートで加速していく姿は迫力にあふれており、バトル中に何度も描かれるアルカイックなフロントフェイスに読者は引き込まれてしまう。
毅のR32のボディカラーは黒である。ダークな色合いというのははやり悪役にたとえられがちだが、夜の峠で黒いクルマが疾走する姿がまたシブい。負けてなおカッコいい敵役というのも、やがて時代の終焉を迎えるスカイラインGT-Rらしさであり、実に印象的な存在である。