1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。
当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。
今回取り上げるのは、同作の最終章にしてラストバトル。藤原拓海の前に立ちはだかった天才、乾信司を紹介する。拓海と同じハチロクに乗り、同じように普段はナイーブな彼だったが、ステアリングを握ると変貌する!
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
■乾信司はどんな人物?
「天才」と呼ばれる人物はあらゆるスポーツにおいて存在するが、ドライビングに関しても例外ではない。『頭文字D』作中では、主人公の藤原拓海がその「天才」の代表的存在としてストーリーを進めてきたが、ラストバトルでは、新たなる「天才」の象徴として1人の少年がヴェールを脱ぐことになった。
乾信司は見るからに少年のようで、同作に登場するドライバーのなかでも最年少と思われる。しかしプロジェクトDによる神奈川遠征最終エリア、サイドワインダーのダウンヒル担当として登場している。言うなれば、“ラスボス”である。
多くのマンガにおいて、“ラスボス”といえば、体格や地位、能力などの部分で、主人公より大きな存在というのが定番である。しかし今作は、そういったマンガの王道ストーリーを裏切り、主人公より幼く、人間的にも未熟にみえるキャラクターをラスボスに据えてきた。こういった部分が、マンガを読み慣れた世代にとっても興味を惹かれる部分なのだろう。
ルックスは、まだあどけない中学生のようにも見え、名前も『エ●ァン●リオン』の主人公と同じ「シンジ」だ。性格はだいぶ天然で、やはり「エ●ァのシンジ」同様、中二病がかっている。いよいよプロジェクトDとのバトルが始まろうというのに、スタート地点にはなかなか姿を見せず、サイドワインダーのメンバーをドギマギさせた。
結果的には、ヒルクライムにおける北条豪(と高橋啓介)の走りを見て、ついに決心。僕もヒーローになりたい、という思いとともに姿を現すことになる。ただし、後のバトル中にも、「このヒト速いよ……ボクなんて…やっぱりダメだよ母さん。もうイヤだこんなの…逃げ出したい…」などと中二病らしい発言をしていて、期待を裏切らない。