ハチロクを駆る異色のラスボス!『頭文字D』人物列伝16【乾信司編】


 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

 当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回取り上げるのは、同作の最終章にしてラストバトル。藤原拓海の前に立ちはだかった天才、乾信司を紹介する。拓海と同じハチロクに乗り、同じように普段はナイーブな彼だったが、ステアリングを握ると変貌する!

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

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■乾信司はどんな人物?

「天才」と呼ばれる人物はあらゆるスポーツにおいて存在するが、ドライビングに関しても例外ではない。『頭文字D』作中では、主人公の藤原拓海がその「天才」の代表的存在としてストーリーを進めてきたが、ラストバトルでは、新たなる「天才」の象徴として1人の少年がヴェールを脱ぐことになった。

■Vol.699「最強の敵」を1話丸ごと読む!

 乾信司は見るからに少年のようで、同作に登場するドライバーのなかでも最年少と思われる。しかしプロジェクトDによる神奈川遠征最終エリア、サイドワインダーのダウンヒル担当として登場している。言うなれば、“ラスボス”である。

 多くのマンガにおいて、“ラスボス”といえば、体格や地位、能力などの部分で、主人公より大きな存在というのが定番である。しかし今作は、そういったマンガの王道ストーリーを裏切り、主人公より幼く、人間的にも未熟にみえるキャラクターをラスボスに据えてきた。こういった部分が、マンガを読み慣れた世代にとっても興味を惹かれる部分なのだろう。

 ルックスは、まだあどけない中学生のようにも見え、名前も『エ●ァン●リオン』の主人公と同じ「シンジ」だ。性格はだいぶ天然で、やはり「エ●ァのシンジ」同様、中二病がかっている。いよいよプロジェクトDとのバトルが始まろうというのに、スタート地点にはなかなか姿を見せず、サイドワインダーのメンバーをドギマギさせた。

 結果的には、ヒルクライムにおける北条豪(と高橋啓介)の走りを見て、ついに決心。僕もヒーローになりたい、という思いとともに姿を現すことになる。ただし、後のバトル中にも、「このヒト速いよ……ボクなんて…やっぱりダメだよ母さん。もうイヤだこんなの…逃げ出したい…」などと中二病らしい発言をしていて、期待を裏切らない。

■何よりも重要な母親の存在

 乾信司を語るうえで、切っても切り離せないのが彼の母親だ。

 初登場時から母が傍にいるし、当初、サイドワインダーの久保英次との会話の際も、母親と一緒であった。ただそれは、彼の家庭環境が大きく影響しているのだろう。ラリーストだった父とは死別しており、幼い頃から母子家庭で育った。信司が運転をはじめたのも、日々の仕事で疲労した母親を思ってのことである。ついでに言えば、助手席で眠っていた母親を起こさないために、横Gを感じさせない安定感のある走りを身につけている。

 なお、彼がラストバトルで乗る、スプリンタートレノ(AE86型)のクーペ(拓海のハッチバックとはボディ後方の形状が異なる)も、実は死んだ父親がかつて愛車としていたもので、死後は母親が乗っていた。なお信司のバトルにおける走り方は、結構、荒めであり、このトレノもボディがキズだらけになっていたところを、バトル前に久保が板金し直している。

 運転の実力については、バトル前から、北条豪と久保との間で「圧倒的なスピードがある」「集中できている時は手が付けられない」などと評価されており、折り紙つきの速さであることがわかる。敵のリーダーである高橋涼介も、心眼で(!?)その実力を見抜き、「手強いぜやつは」と拓海に告げている。

 実際に、ステアリングを握った信司は、まるで別人のように強気な性格に変貌し、コーナーごとに拓海のハチロクを引き離していくほど速かった。

 なお、普段は行儀の悪い子ではないのだが、集中してゾーンに入ってしまうと、向上心が勝るというか、周囲のことを顧みないタイプになってしまう。基本的にはボーッとした少年なので、見た目は「目を三角にして」という感じではないが、中身は完全に「キレる若者」で、バトル中はそういったシーンが散見される。

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