■細部まで作り込まれた怪物モデル
ホンダがシビックタイプRやインテグラタイプRを販売していても、それに対して「所詮FFだろ」とその存在を認めない無理解な輩もいた。
そこに、ホンダとしては29年ぶりとなるFR車としてS2000が誕生したということで、当然、走行性能はスポーツカーファンたちの期待をさらに上回る相当なレベルに達していた。特に、9000回転まで回した時のF20C型エンジンのフィーリングは、ドライバーに至福の瞬間を与えてくれたものだ。
スタイリングを見てみれば、ロングノーズ、ショートデッキの古典的スポーツカーのシルエットが採用されている。ヘッドライトは大きめで、その中央下部でエアダムがやはり大きな口を開けていた。
ボディに抑揚のあるキャラクターラインはなく、走りにとってポジティブな部分のみで構成されていて潔い。無駄なものを排除したレーシングカー的デザインが走る姿は、まるで美しきサラブレッドのようであり、「ホンダ」という血統の良さがそれを強調しているのは言うまでもない。
“特別なモデル”として細部まで淡々と造りこまれたS2000は、さまざまなものを咀嚼してきた50歳のホンダが産み出した怪物であり、ただただクリエイティヴィティに溢れていた。同時代、オープンカーとしてはあまりにも走行性能が傑出していたことで、ライバルの存在さえ見えなかった。
当時の形骸化しつつあったスポーツカー市場に、ジェネレーションYならではのセンシビリティを叩きつけた印象が強く、当時はもちろん、今も羨望の眼差しを同車に向ける人は多い。