■クルマ好き青年の現実を素描
『頭文字D』がカーバトルマンガとして若者へのクルマ人気復権の機能を果たしていながら、これだけ恋愛模様をしっかりと描ききっているのは、なによりエンターテインメントとしてのマンガの骨格を持つからに他ならない。
この後の拓海と上原美佳との恋愛にしても、しげの先生は見事なバランス感覚と絶妙なチューニングで、クルマとラブストーリーを描き切っているのだ。
今回の池谷と真子の話にかぎっていうなら、青春映画の大傑作『卒業』のようなロマンティックな結末を想像させておきながら、極めてドライなラストを迎える。池谷というひとりのクルマ好き青年の下半身グラフティにはならず、はからずも若者たちの感情がワンパッケージに詰め込まれ、その等身大の現実が巧みに素描されている。
池谷と真子の思いが報われなかったが、この先も緻密な構成によって、若者たちの物語は力強く展開していくことになる。
拓海が「プロジェクトD」のメンバーになって以降、池谷は物語後半で登場回数が激減してしまうことになるが、世の草食系クルマ好きたちが、この時の池谷の姿を見て、現実の恋愛に正面からぶつかっていったに違いないと、そう思いたい。
■1話丸ごと掲載(Vol.63「ジ・エンド・オブ・サマー」)
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