■無駄のない走りで拓海を失意のどん底に
三白眼と頭に巻いたタオルが印象的で、これらはすっかり須藤京一のパブリックイメージと化しているが、実は1年前は角刈りのような髪型をしており、タオルを巻いていなかったようだ。
現在タオルの下がどのような髪型なのかは不明だが、「頭にタオル」というと実にオールドファッションな雰囲気である。釣りが趣味なのか、ガテン系の仕事をしているのか、ラーメン屋でバイトでもしているのか、読むほうとしては推測するしかないのだが、雰囲気的には洋服の下にきっと筋肉質な肉体が隠されているのではないかと妄想してしまう(?)。
そして、なにより須藤は、拓海が史上初の敗北を喫する相手でもある。前述のとおり赤城山へ拓海を呼びつけてスタートしたバトルは、実にソリッドでタイト。お互いが少しの気の緩みもなく、過酷なまでに速いテンポで展開していく。最終的には、盲目的にFRやドリフトの力を信じている峠の若者たちを絶望のどん底に叩き落とす結果を導くことになる。
この時、なつきとの恋のアクシデントの最中であった拓海が、果たして真の実力を発揮できていたかといえば、その真相はわからない。しかし須藤京一の走りは、まるで操作しているのが人間ではないような、無機質かつ完璧なものであった。
そもそも彼は、ジムカーナ出身で正確無比なテクニックを持っており、ミスをしないドライビングを信条としている。それでいて、4WDの特性を完璧なまでに把握していた。
■一見の価値あるバトルとキャラクター
“4WDの番人”として主人公の前に立ちはだかった須藤の手により、主人公が完膚なきまでに叩きのめされたこのバトルは、全編にわたってソリッドな手触りを残す。
一度追い抜かれた後は、追いつくことさえできないハチロク。そして最後の最後にハチロクのエンジンが「グシャッ」とブローするなど、バトルのクライマックスはたたみかけるようなシーンの連続で、読んでいるこちらも呆然とさせられる。
しっかりとした思想とスピリットを持つ須藤は、基本に忠実でミスをせず、相手の弱点を突いてくる。「合理性だけが彼の美学」(高橋涼介談)と言われ、「4WDのクルマ以外には関心を示さない」彼が、その4WDの走行性能をフルフォースで叩きつけてきたのだから、ハチロクにとってはたまらなかった。
なお、のちにエンペラーのホームであるいろは坂で再戦してハチロクにリベンジされると、須藤もハチロク=FRの良さも認めることになるのだが。
そして、なにより須藤京一というキャラクターが画期的だったのは、それまで『頭文字D』ではほとんどのバトルがスポーツカー同士というテンプレートにおいて成り立っていたのに対し、ランエボのような4WDセダンを突如持ち込んだこと。
そして、重くて遅いイメージだったセダンによって、スポーツカーの拠り所である「走りの良さ」や「速さ」が塗り替えられてしまうという恐怖を、読者に抱かせることに成功した点にある。
実際、重厚で深い歴史を持つ4WDセダンが一定の支持を得て、その後も独自のスタンスで進化していったのは言うまでもない。
■1話丸ごと掲載(Vol.103「さえわたる京一のテクニック」)
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