連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。
同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。今回は、軽量なハチロクに対して“軽さ”を武器に挑んだマシン、カプチーノを取り上げる。その姿に、現代まで続く軽スポーツカーの原型を見た!
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
【画像 ギャラリー】名車の実車を写真で見る! スズキ カプチーノ
■伝説的軽スポーツカーとして
今も昔も軽自動車は大人気ジャンルだが、軽自動車の“スポーツモデル”となると、数が限られてくる。さらに、本格的に走りを楽しむための、ボディ形状がクーペやオープンのスポーツカーとなれば、つい先日、S660が生産終了となったことで、現在はダイハツのコペンしかラインナップされていない。
しかし、約30年前、軽自動車のスポーツカーは3車種も存在していた。
「ABCトリオ」と呼ばれたその面子は、「A」がマツダのAZ-1、「B」はホンダのビート、そして「C」は、今回紹介するカプチーノである。そのなかで、AZ-1といえば「ガルウイングドア」、ビートといえばS660にも受け継がれた「ミッドシップ」が一番の特徴だが、カプチーノは比較的汎用な造りになっていて他の2台とは対照的であった。
しかし、カプチーノはごく普通のスポーツカー(ルーフは取り外し可能)である、と言うと異を唱える人がいるかもしれない。このクルマは、華美なものを削ぎ落とした、純然たる硬派なスポーツカーなのだ。理想的な前後重量配分を実現したFR駆動で、ターボエンジンをフロントミッドシップ搭載し、軽自動車として初めて4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用したモデルである。
こうして見ると、その車名のようなファニーな印象はまったくなく、「運転の楽しさに理由などいらぬ!」と言わんばかりに、大上段に構えたクルマであることがわかる。一度でもその運転席に身体を入れたことがある人なら理解してくれるだろうが、あまりにもタイトな造りで中年太り泣かせな運転席は、20世紀のF1マシンのコクピットを想起させてファンの涙を誘う。