■キャッチーなデザインでシビアな戦い
全体的なスタイリングは、いわゆる古典的スポーツカーの「ロングノーズ&ショートデッキ」である。曲線でまとめられたキャッチーなデザインテイストには、大衆を寄せ付けないような排他性はまったくない。そういう部分では、(運転席の狭さを除いて)親しみやすくポップで、スポーツカー好きに対しても、そうでない層にもサービス精神旺盛なモデルだった。
しかし、『頭文字D』作中のカプチーノの扱いは、かなりシビアなものであった。ここまで無類の強さを誇ってきた主人公のハチロクを打ち破るため、ライバルが用意した“軽さ”を武器とするマシンとして登場する。
それまでのライバルが乗ってきたパワフルで強力な戦闘力を持つモデルとはまったく逆の武器である“軽さ”を持ち、ハチロクより速いコーナリングスピードを実現しようという狙いがあった。
元ラリーストの坂本というキャラが操ったこの車両は、タービンやコンピューター交換が施され、最高出力130馬力を発揮。フロントにはエアロバンパーも組まれていて、もちろんハチロク(960kg)に比べて軽量である(700kg超)。
最終的には、主人公の雨を恐れない鉄の心臓とヘッドライトを消すブラインドアタックの前に破れてしまうとはいえ、ハチロクを従えながら雨中のコースを4輪ドリフトするビジュアルは、爽快のひと言。軽自動車のスポーツカーの“軽さ”がキーになるという点でもドラスティックなバトルであった。
■後継が望まれる不世出のモデル
1998年に生産終了となったカプチーノには、後継モデルが存在しなかった。その後のスズキの軽スポーツモデルといえば、アルトラパン SSや2015年に復活したアルトワークスなどがあるものの、これらはハッチバックベースの実用性を兼ね備えたモデルで、純粋に走ることを目的としたスポーツカーとは違う。
後継車が存在しないことは問題ではない。しかしクルマというものは、生産台数も少なく、販売終了後に同ブランドに同系統のクルマがなかったとなれば、時代の経過とともに存在が風化していってしまうものである(AZ-1も同様だが……)。
同時代をリアルタイムで過ごした人にとって印象が極めて強烈だったモデルだけに、カプチーノの偉大さを受け継ぐモデルが欲しいと今も期待している人は多い。
2002年にダイハツはコペンを発売した。他に軽スポーツカーがない時代に登場した同車は、多くのカーマニアに衝撃を与えた。だが、そのコペンにとって最大のインフルエンサーになったのは、誰あろうカプチーノである。
カプチーノが走る姿を生で見たことがない人も、現在も販売され続けるコペンが街で印象的に走るシーンを目にすれば、カプチーノが軽自動車のスポーツカーの先駆として大きな影響を与えたということを実感できるに違いない。
■1話丸ごと掲載(Vol.295「思考停止」)
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