■作中でランエボIIIがみせた圧倒的な速さ
京一のランエボIIIと拓海のハチロクとのバトルは、ハチロクが前、ランエボが後ろの隊列で走り出し、1コーナーの立ち上がりからバトルをスタートする。
京一は、「これは講習会(セミナー)だ」「4WDが2WDに負けることはありえない!!」と豪語するが、バトル後、これらの発言は、主人公が初敗北を喫するという結果で、充分につじつまがあってしまうのである。
赤城のダウンヒルは、秋名や妙義よりも勾配がきつい。パワーよりブレーキのコントロールとハンドリングが重要。しかし京一のランエボは、そのハンドリング性能すら最速に仕上げられている。「4WD」という唯一神を信じて疑わない、「合理性だけが美学」の男(京一)にとって、FRの、ましてや旧型車を負かすのは、赤子の手をひねるように容易なことだった。
勾配の緩い中速セクションで勝負をかけたランエボは、S字のコーナー間、わずか1秒程度の全開区間で並びかけ、大外からハチロクより速いスピードで曲がりながら抜き去る。この瞬間、小さな痛みを感じた読者も少なからずいたことだろう。
その後、拓海の神業コントロールで、ハチロクも差をつめたものの、ランエボは余裕のペースキープ走行。ラストに差し掛かり、ランエボがフェイントモーションから、ストレートで狂ったような加速を見せた刹那、ハチロクのエンジンブローでジ・エンド。
クルマは素直で残酷なものだと、拓海と読者に教えてくれたランエボ。その頑強さに、胸が苦しくなると同時に、憧れを抱く。
冒頭でも触れたが、バトル全編を貫くのは、「4WD対FR」という構図だ。序盤からラストまで、ランエボの驚異的な走りを目の当たりにし、拓海の心はさざめき、揺らぎ、最後に崩壊する。
スタリオンを最後に「FRスポーツ」というムーブメントへのカテゴライズを拒んだ三菱は、「4WD」という最強の武器で、ラリーだけでなく峠の世界までも席巻したのであった。