■リアスポイラーを外すのもアリ
III、IV、Vときて、今回はVIである。実はここまで『頭文字D』にはランエボが多数出演している。
須藤京一のような真っ当なライバルから、粘着質な性格の岩城清次、今回対戦するチームの2人(1人はエボVで高橋啓介とバトル)のような雑魚キャラ(←失礼)まで、各人の実力、立ち位置、性格はさまざまである。そして今回、VIトミ・マキネンエディションを操るキャラクターは、名前さえ出てこないものの、テクニックはそれなりという設定だ。
ランエボファンからすれば、主人公に乗って欲しいと思うかもしれないが、残念ながらそのタスクはインプレッサに取られてしまった(笑)。まぁ、アルテッツァのようにあっさり負けてしまうわけではないので、せめてしげの先生の素晴らしい描写力を楽しんでほしい。マンガで見るクルマのスタイリングは、時には写真よりソウルフルでもある。
それにしてもこの某が操るマシン、なんとリアスポイラーが付いていない。リアの巨大なスポイラーといえば、ランエボにとって聖域ともいえるエアロパーツだが、登場人物たちの反応はいたってノーマルの通常運転。これが峠の人たちのリアルであり、誰もがオリジナリティを求めたチューニングやカスタマイズの楽しみ方のひとつなのだろう。
バトルでは、エボVIに搭載されたハイテク電子デバイスを駆使する某に対し、拓海のハチロクは「多角形ブレーキング」、「ブレーキングドリフト」と次々にウルトラテクニックを披露。
父・文太のインプレッサWRX STIに完敗して以来、4WDへの潜在的なトラウマを持っていたであろう拓海だったが、自ら画を描いた、まるで詰め将棋のようなプランで、エボVIを打ち取った。
■オリジナルの世界観を膨らませたモデル
ちょっと気を抜けば吹っ飛んでしまいそうな強大なトルクとパワーを発揮しつつも、一方でタイヤは確実に地面を掴み、削り、掻きむしるように車体を前へ押し出していく。従来のスポーツセダンのように“地を這う”イメージではなく、まるで空を飛んでいるかのような走りを楽しめる。夢のようだが、決して現実離れしているわけではない。
さまざまな電子デバイスが、説得力を持ってステアリングを握る人の心を掴んで離さない。
操るのがヴィランであろうと、エボVIが名車であることに間違いはなく、作中でもしっかりハチロクを苦しませたし、バトル自体はロジカルな緊張感に満ちていた。バトル前後に、ワル仲間を呼んだり、拓海を脅したりと、某ドライバーがとった行動は残念だったが、後になって高橋啓介の存在が、えも言われぬカタルシスを読者に与えてくれることになる。
ドライバーズタイトル獲得4回、マニュファクチャラーズタイトル獲得1回、通算23勝と、WRCで栄光の歴史を築いてきたランサーエボリューション、そして三菱にとって、この「トミ・マキネンエディション」は特別なモデルである。あの時代だったからこそ、変なバイアスがかかることもなく、純粋に“ランサーエボリューション”というモデルの世界観を膨らませることができたともいえよう。