『頭文字D』を彩った伝説の名車列伝11 マツダ ユーノス・ロードスター編

■等身大のエピソード

 栃木県の某市、走り屋のチーム・セブンスターリーフのリーダーでもある末次トオルは焦っていた。付き合っている彼女から選択を迫られていたのだ。

 彼女との結婚を考えるか、それとも今後も愛車に金をかけて走り屋を続けていくのか、決断の時は迫る───。どことなくリアルで、読者の感情につきささるエピソードである。きっと当時は、トオルのように人生と天秤にかけながらクルマを愛した若者が多くいたはずだ。

 そんな読者にとって等身大の走り屋、末次トオルの愛車が、ユーノス・ロードスターである。「本来1600ccのB6(エンジン)を1800ccまでボアアップして……」と言っていることから、ベース車体は1993年前半まで販売された前期モデルのようだ。

 そのほか、ハイコンプピストン、コンロッド&クランクシャフト交換、フライホイール軽量化、4連スポーツインジェクションと、レスポンスの向上を狙ったチューニングが施されている。

 また劇中の外観を見ると、ハードトップも取り付けているようだが、これはボディ剛性の強化を図るための装備として、当時のロードスター乗りには定番のアイテムであった。さらに、リアスポイラーとリップスポイラーなど軽微なエアロパーツも装着されている。

 ただ一方で、彼女からは「お金かければかけるほどへんになってく」、「見ためだって前よりなんかボロっちぃ」と非難されているのも、またリアルで苦笑してしまう。

■人生を学ばせてくれるクルマ

 そんなトオルが、ロードスターで人生を賭けた勝負を挑んだのは、主人公・藤原拓海が駆るハチロク(スプリンタートレノ)だった。軽い車体でFRと共通点が多く、ハイスピードコーナリングが身上の2台であったが、最終的にはドライバーの才能の差が勝負を決めることになる。

 ロードスター先行でスタートするが、最高の走りをしていてもピタリと後ろについてくるハチロクに対して、トオルは焦りを感じ始める。

 そしてコース終盤、フタのない側溝のあるエリアで、意図的に強く荷重移動させることでイン側のフロントタイヤを浮かせるという超絶テクニックを披露したハチロクが、コーナーをショートカットしてロードスターをパスしていく。それを見たトオルも、同じ走り方をトレースしようとするが、側溝にタイヤをとられて、ジ・エンド。最後は横転してしまうのだった。

 ロードスターの特徴はコントローラブルなことで、それがつまり「人馬一体」な走りにつながる武器になる。

 しかし、クルマに伝えようとする意思とそれをクルマに受け入れさせる技量、両者が揃って、初めてこの「人馬一体」というコミュニケーションは成り立つ。香ってきそうなほど青かったトオルの技量は拓海には及ばず、その意思もろとも霧散していく。バトル翌日、トオルは走り屋をやめることを彼女に告げた。

 実はバトル前から「一番大事なのは、クルマの運転を楽しむことだろ…」と語り、美しき撤退を決めていたトオル。ここからは「今までとは違ったカタチで好きなクルマとつきあっていくよ」と彼女と愛車とともに、人生の再構築を行うことになる。

 運転技術、走る楽しみ、カーライフ、人生設計……ロードスターは、いい意味で、いろいろと学ぶことの多いクルマである。

■1話丸ごと掲載(Vol.198「イカれてる奴はどっちだ!?」)

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