連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。
同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。今回は、日本を代表するスーパーカー、ホンダ NSX(初代モデル)を取り上げて、スーパーカーはすべてが“スーパー”であるべきか否か、その是非について考える。
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
【画像 ギャラリー】名車の実車を写真で見る! ホンダ NSX
■スーパーカーらしからぬ部分
「NEW SPORTSCAR X」、つまり新時代のスポーツカーのあるべき姿として命名されたNSXは、1990年に登場するやいなや、世界にセンセーションを巻き起こした。
当時としては異例だったが、これは「優れたユーティリティ性能を持つスーパーカー」であり、ゴルフバッグが積めるトランクや、広大な視界を確保するウィンドウなど、ある程度の高い実用性を備えていた。
それまでは、「スーパーカーといえばピュアスポーツ」と見なされていたが、NSXの登場以降、「スーパーカーだからといって使い勝手を犠牲にするのはおかしなこと」という考え方が生まれたのだ。
その後、世界の名ブランドから、より運転が安楽で、乗り心地が快適で、実用的に使えて、さまざまな部分がイージーなスーパーカーも登場することになる。アウディ R8や日産 GT-Rなどはその典型だろう。
ただ一方で、NSXはいわゆる「羊の皮を被った狼」でもある。R8やGT-Rもそうだが、公道からサーキットへと一歩足を踏み入れ、ひとたび本気で走ろうとすれば、下手なスポーツカーでは太刀打ちできない類いまれなる走行性能を秘めている。
たとえば、エンジンのミッドシップ搭載はもちろん、市販車としては世界初となるオールアルミボディの採用など、走りに対する凝った造りが当然のように搭載されていた。