『頭文字D』を彩った伝説の名車列伝14 ホンダ NSX 編

■ラスボスとして君臨

 実際に試乗するとなれば、やはりただならぬ緊張と官能性が溶け合った感覚を味わえる。これは普通のスポーツカーでは味わえないもので、やはりこのあたりがスーパーカーたる所以なのだと再認識させられる。

 そんな立ち位置のNSXが、『頭文字D』作中でバトルするのは、高橋啓介が駆るRX-7(FD3S型)だ。主人公である藤原拓海と同等の人気と実力を誇る同キャラにとっての、“ラスボス”として君臨するのだった。

 このバトルは、それぞれのクルマとドライバーの立ち位置に相応しく、単行本にして2巻半という長丁場となる。

 が、長いにも関わらず、追い抜きのシーンは一回もなく……と書くと、なんだか実際に読んでいない人は拍子抜けしそうだが、バトル中に2台(2人)の間でかわされる切実な駆け引きは、人間の本質がえぐられるような深いシークエンスにまとめられている。

 最終的には、NSXを駆る北条豪の心の開放に加えて、クルマへの夢と人間の衝動を見事に表現した秀逸なバトルとして、今もファンの間で語り継がれている。

 しげの先生の筆力によって生み出された2台の描写も素晴らしい。艶やかさと力強さを融合させたようなRX-7と、ある意味、そのスタイリングだけで、実際にハンドルを握ることがなくても、スーパーカーであることを伝えることができることを証明したNSX。

 しげの先生の描き込みによって、両車のデザインの魅力が、余すところなくスペクタクルに表現されている。

■前衛的スタイルのエモーショナルな魅力

 NSXのスタイリングは独特だ。前述のようにミッド搭載されたエンジンの後方にトランクを備えているため、リアのオーバーハングが長いのが特徴である。それまでのミッドシップスポーツといえば、後端をスパッと切り取ったようなスタイリングが主流だった。こういった人の視線を集めるような、ある意味、前衛的なビジュアルもスーパーカーらしさであろう。

 実用性の高さに加えて、このスタイリングもまた、議論の余地があるクルマではある。しかし実際のところ、NSXはそのスペクタクルな走りとスタイリングによって高い人気を獲得し、国産スポーツカーの到達点のひとつとして、日本自動車史に鎮座している。

 NSXが、日本のみならず世界のスーパーカーの発展や進化に大きく寄与したといっても過言ではないだろう。

 実はかなりのロングセラーモデルであった初代NSX。さまざまなスポーツモデルが生産終了、あるいはモデルチェンジしていくなかで、約15年も販売され続けた。しかし、何年経ってもいいクルマはいいものだ。あの時代、日本の最高峰に立ったモデルは、今も色褪せない魅力を放っている。

■1話丸ごと掲載(Vol.634-635「加速するバトル」)

■掲載巻と最新刊情報

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