『頭文字D』を彩った伝説の名車列伝15 マツダ RX-7(FC3S型) 編

■年式は古くてもハイテンション

 ご存じのとおり『頭文字D』の主役・藤原拓海の愛車はAE86型のスプリンタートレノだが、同作連載当時、すでに旧車となっていたモデルである。連載開始以降、R32型スカイラインGT-RやFD型RX-7のように、後年に発売された優れたモデルを打ち破ってきたところで、第5巻にしてこのFC型RX-7とのバトルを迎えたわけだが、初めて同年代のモデルとの対決となった。

 RX-7のステアリングを握るのは、同作で最も人気が高いキャラクターといっても過言ではない、赤城レッドサンズの高橋涼介だ。

 クールで理知的な彼が、なぜ戦闘力が劣るであろう先代モデルのFC型を選んだのか、その意図は作中で語られていないものの、その理由が「デザインが好きだから」であっても驚かないだろう。それだけ、同世代にとって半端ない魅力を放っていた形状であるし、同バトルでもその魅力が余すところなく描写されている。

 バトルは、スタートでハチロク(トレノ)が先行し、RX-7が追いかける展開。後方からのプレッシャーに負けたハチロクがヘアピンのツッコミでアンダーステアを出し、そのスキを逃さずにRX-7が追い抜いていく。しかし後半、タイヤがあやしくなったRX-7に対して、ハチロクはじわじわと追い上げ、最終的に四輪ドリフトのままラインをクロスして抜き返していくのであった。

 同作品中、最高のドライバーのひとりである高橋涼介より、未熟だった拓海のほうがシビアなラインを走れたのは、やはりコースが地元だったという点が大きい。そういう意味では、FCファンにとっては別ステージでの再戦にも期待したくなるところだが、残念ながらこの両者のバトルが実現することはもうない。

 スタート前にハチロクと並んでFCが「ウィン」とリトラクタブルライトを上げるシーンがハイライト、と言ってしまうと尻すぼみのように思われるが、そこで高まったテンションが最後までつづく、いい意味で、マシンとドライバーの若さを感じ取れるバトルだ。

■その後の日本のスポーツカーの礎に

 バトル中の高橋涼介の発言にこんなものがある。

「軽量コンパクトなロータリーエンジンがもたらす最大の恩恵は馬力なんかじゃなく……理想的な前後重量配分によって実現する運動性能こそ生命線!!」だと。

 これぞまさにRX-7メソッド。「理想的な前後重量配分」と「高い運動性能」は、後のFD型はもちろん、その前に発売された世界的名車・ユーノス ロードスター(初代モデル)にも、その“生命線”は受け継がれることになる。

 また、初代RX-7で、VIPじゃなくてもポルシェのような走りの雰囲気を味わえるクルマとして呼ばれた「プアマンズポルシェ」という呼称は、2代目モデルで、ポルシェにも対抗できる走行性能を備えたことで、ポルシェに匹敵する走行性能を持った廉価なクルマへと、呼び名自体の捉え方を変えさせている。

 新車販売当時、アイコンとしての先鋭的な魅力は尖りすぎな感もあり、マツダ好き・ロータリー好きのカーマニアを除いて、受け入れるにはパンキッシュさが目に付いた。

 しかし現在、筆者のようなロータリーエンジンのクルマを愛車としたことのない輩にも、RX-7というクルマが明らかに他のスポーツカーとは違うということはありありと感じらるようになった。

 そして、その礎となった2代目モデルが、現在、30年前のクルマながら、中古車市場で100万〜300万円ほどで流通していることからも、普遍的な魅力を備えていたことがわかる。

次ページは : ■1話丸ごと掲載(Vol.44「ドリフト対ドリフト」)

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