【バトル考察】
涼介と北条兄は一言二言交わしただけで、大観山ドライブインから山を下る形でスタートする。
後追いの北条兄はすぐに状況を分析。「旋回能力は互角」、「馬力(パワー)は明らかにこっちが上」、「制動(ブレーキ)に関しては軽いぶん向こうに利がある」。
しかし、さらに続ける言葉が怖い。「止まれないなら、不可抗力として、ぶつけるだけのこと」。つまり勝敗は、涼介が逃げ切るか、北条兄が仕留めるかだとわかる。
さらにスタートしてすぐ、フェアレディZに乗る池田が2台の後ろにつける。
池田は、神奈川第3ステージで啓介と熱戦を繰り広げたチーム「スパイラル」のエースだが、どうやら日頃から箱根で自警団的な役割をしているらしく、「峠のルールを壊す存在は断じて許さん」と、北条兄を捕捉しにきたのだ。さすが寺の息子!(←関係なし)
つまり、このバトルは、RX-7、GT-R、フェアレディZという(異論があるかもしれないが)、日本のスポーツカーでもトップ3の人気モデルが絡むバトルになり、とにかく描写がアツい。
しかも、しげの先生の筆にはまったくパースに狂いがなく、純粋にマシンを眺めてるだけでも美しく、ため息がでてくるほど。かつて、これほどまでにクルマのスピード感をリアリティを持って描けたマンガ家がいただろうか。
やがて北条兄がしかける。コーナー入り口で、FCのリアバンパーにGT-Rのバンパーをぶつけてきた。
後方で見ている池田曰く「ターンイン直前の安定期に入る直前にあれをやられるのが後輪駆動には一番つらい!」のだが、涼介は見事にコントロールして体勢を立て直す。さらにもう一度GT-Rがぶつけようとするも、FCは常人離れしたコーナーへの進入の早さでかわす。
しかし、やはりGT-Rは速い。直線でFCに追いつくと、FCのイン側にフロントノーズを入れ、そのままボディをFCに叩きつける。
このサイドプレスに対し、FCは山壁に車体を乗り上げて斜面をバンクがわりに走行しつつコース復帰したり、ガードレールにぶつかる瞬間にGを逃して衝撃を吸収したり、 フルブレーキングで後方へボディを抜くなどして、すべてかわす。どれも神業であり、涼介の天才的なテクニックが肌で感じられるシーンだ。
バトル中、北条兄が、「オレが許せないのは、お前がとっくに立ち直って前に進んでいることだ」と問えば、ありえないはずのことだが、シンクロした涼介が、「それは違う!! 傷の深さは…悲しみの大きさは…絶望して立ち止まってしまうこととは別なんだ」、「どんなに苦しくても、前に進むことが俺たちの義務だ…」と答える。
さらに涼介は、「あの人はオレと同じ苦しみを抱えている」、「きっかけが必要なだけだ。オレはあの人を信じる」と本音であり、今回のバトルの目的を暴露。どちらもプラトニックなのだ。
コース終盤になると、ボディが重い4WDのGT-Rは、ブレーキとタイヤが終わりを迎える。北条兄にとって、涼介がこれほどのハイペースで逃げることは誤算だったのだ。
自暴自棄になる北条兄。その異変を感じ取ったFCは、なんと最終コーナーでアクセルを抜き、ブレーキング。減速したFCのリアバンパーにGT-Rのノーズが突っ込む! なんと涼介は、北条兄を助けるべく、FCでGT-Rの車体ごと受け止め、停止させようというのだ。
しかし、2台の軸がずれていてバランスが取りづらく、制動力をマックスに使えない。涼介不覚! このままではクラッシュする! その瞬間、ずっと後ろで傍観してきたフェアレディZが2台の横をすり抜ける。
そして、「あんたひとりにそこまでやらせるわけにはいかねぇな!」と、FCの横にぴったりつけ、共にGT-Rを支えた。白眉の名シーンである。
2台のブレーキ力によって、3台は料金所の目の前でなんとか停車。クルマから降りた涼介と北条兄は言葉を交わし、ついにわかり合うことができた(この時の2人の会話はぜひ本編で!)。
ここで物語は帰結し、涼介の神秘性とカリスマ性はさらに増すのであった。
今回のバトルは、いつものような抜いて抜かれての決着ではないため、人によっては外連味に乏しいというかもしれない。
しかし、そもそもこのバトルの見所は、クルマ同士の速さ比べではなく、涼介と北条兄との心と心のぶつかり合いなのだ。ここに気がつけば、危険だと思えた2台のぶつけ合いも、ストーリーに深みを与えているということがわかる。
強大な悪者(GT-R)を、悪の道から救うべく神業を持つ正義の存在(FC)と、純粋に峠を愛する聖者(フェアレディZ)とが救うラストシーンは、陶酔的なまでに美しく、そして見応えがある。