【バトル考察】
ヒルクライムはトラクションが重要だ。コーナー出口でパワーをいかに効率的に路面に伝えるか。その点ミッドシップは有利で、さらに、ターボのFDよりNA(自然吸気)のNSXは、タイヤにも負担をかけない。つまり、消耗戦となればFDに勝ち目はなくなってしまう。
しかし、序盤はNSXがぶっちぎるようなこともなく、2台は連なって走り続ける。コースを4つに区切ると、中速エリアの第二、第四区間はNSXにアドバンテージがあるとみられており、案の定、第二区間に入ると、NSXはペースアップし、FDのタイヤをいじめにかかった。
それでもFDは食い下がる。NSXから離れないのだ。とんでもないハイペースを記録し続けた2台は、第四区間に入った。ここでさらに勝負を決めにかかるべくスパートをかける北条豪。しかし様子がおかしい。それでもFDが離れていかないのである。「なんだか…話が違うんじゃねえか…!?」北条豪に焦りが見え始める。
状況を聞いた久保も思わず「FDにそこまでのポテンシャルがあるはずがない」と唸る。作戦は脆くも崩れ去っていた。
しかし、その裏には、啓介の努力と成長があった。涼介曰く、連日の徹底した走り込みの成果で、「全開で走らずにコントロールしていても全開で走った時の挙動がわかるようになった」。
そして、神奈川エリアに入る頃から、啓介はプラクティスで全開の走りをしなくなった。しかも現在の啓介は、流していてもおそろしく速いため、久保には本当の戦闘力が図れなかったのだ。
1本目で決着はつかず、バトルは前後を入れ替えて2本目へ。熱ダレ、タイヤの劣化など、なにより長期戦の不利を承知している啓介は、スタート前、「3本目があるなら100%オレの負け」と悟りつつ、スタートを切った。
FDの走りを後ろから眺めることになった北条豪は、徐々にFDに魅了されていく。「それにしてもなんとまぁ…気持ちよさそうに走るクルマだ!!」、「ひきこまれる…この心地よいリズムにひき込まれてしまう…シンクロしていく」。
しかし、ここで北条豪はバトル前の兄の言葉を思い出す。
「楽しめ」。開き直る豪。「この男がオレの上をいくというなら…スピードとテクニックを追求するものとして、未知の何かに出会えるならば…しびれるほどラッキーなチャンスかもな」。
そして、今度はNSXがFDに食らいつくのだった。ここまで、最強のライバルとして、忌み嫌われるべき存在だった北条豪が、汚名を返上する展開が施されたのだ。本当にしげの先生の人物描写が丁寧で恐れ入る。
勝負のポイントは、1本目で北条豪が仕掛けたのと同じ地点だった。温存していたものをすべて吐き出すFD。
……おかしい。このあたりから、読んでいてどうもおかしいのである。なにがおかしいかといえば、この作品はアニメではなくマンガのはずなのに、明らかにFDがペースアップしたのが感じられるのだ。
さらに、それが尋常じゃないスピードであることも!! これこそ、平面的で動きがないはずのマンガが、動きを感じられるアニメに勝利した瞬間である。
逃げるFD、追うNSX! 地元の走り慣れたコースでありながらも未体験ゾーンに入った北条豪は、思わず「やめられない…こんな楽しいことやめられっかよ!!」と喜びの言葉を叫ぶ。
しかし、FDはコーナーを超えるごとにNSXを突き放していく。攻める、踏む、追いすがるNSX……。限界を超えてしまったNSXはスピンを喫した。読んでるこちらも、一気に緊迫感から時離れる瞬間だ。それにしてもメッセージ性の強い両車の走りであった。
久保英治の設定したクルマの限界を突き破る、浮世離れした驚愕の区間レコードを刻むと同時に、FDの勝利が確定する。その時、FDからは炎のようなオーラがほとばしっていた。高橋啓介のプロジェクトD最後の仕事、熟しを徹底的に放出しまくった走りは、まさに鳥肌ものだ。
最後に付け加えて紹介したいのは、バトル途中に展開されたギャラリーの親子の会話である。
子「ボクも免許とったらマニュアルのスポーツカーに乗りたい」
親「誰にでも手のとどく安いスポーツカーがどんどんなくなってしまっているけど…スポーツカーが売れる時代がまた来るといいがな」
子「来ると思うよ。絶対に来る…」
これ、きっとしげの先生のメッセージですよね。熱いぜ!