■スペシャルなクルマに仕上げられたが……
スポーツグレードのSiRは、「B16A型」と言われるVTECエンジンを搭載。今でこそスタンダードな存在として注目されることがなくなったVTECだが、当時は、それまでの常識を変革させたエンジンだった。
このEG型シビックに搭載されたVTECも、1.6Lで170馬力ということで、1リッターあたり100馬力を突破している。
なお、作中に登場したシビックのエンジンは、圧縮比アップ/ピストンコンロッドバランス取り/フライホイール軽量化/スポーツコンピューター/EXマニホールド/スポーツマフラーなどが実施・装着され、最高出力は185馬力にまで高められている。同車の車重は1t前後ということなので、圧倒的なスペシャルな戦闘力を誇った。
しかし、どうにもドライバーである庄司慎吾の小悪党感が否めず(笑)、実際のバトルでは、片手をステアリングに固定した「ワンハンドステアマッチ」という、FF車にとって有利なハンデ戦を実施したにもかかわらず、ハチロクに惨敗を喫することになる。シビック自体は無双の峠マシンに仕上がっていたが、主人公・藤原拓海の“キレた”走りに決定的な勝因があったことは疑いようがない。
■峠の若者のドキュメンタリー
前述の通り、小物で、やられ役として登場した庄司慎吾は、コース最後のストレートで悪知恵をアップデートして、シビックごとハチロクにブツけて面目を保とうとする。しかし、あっけなく交わされ、単独でガードレースにクラッシュ。空中に跳ね上がり、車体を軋ませた、EG型シビックのファンキーな肢体を読者に披露することになる。
バトル後、静まった峠道で、ひとりボコボコになった愛車(シビック)を涙しながら見つめる慎吾の姿からは、当時の峠の若者のドキュメンタリー的な生々しさが感じられる。
誤解を恐れずに言えば、同型シビックのデザインには特徴的な仕掛けが見られない。だが、若者たちが感性を発揮したいと思わせるような、絶妙なバランスでスタイリングが構築されていた。
実際、峠でノーマルのEG型を見かけることは少なく、多くの車体が各人の嗜好に沿ったチューニングやドレスアップを施していた。そこが、将来の読めない時代に、自信を漲らせた若者たちから支持された理由だ。当時の若者たちの熱気と苦さが入り混じった名車なのである。
■1話丸ごと掲載(Vol.34「慎吾のあせり」)
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