味のある名参謀オヤジ!!『頭文字D』人物列伝15【久保英次編】


 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

 当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回取り上げるのは、プロジェクトDラストバトルとなったサイドワインダー戦で、相手の参謀役として活躍した久保英次。作中一、二を争う頭脳戦が繰り広げられる!?

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

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■久保英次はどんな人物?

 中年の星である。

 本稿では第一回の「藤原文太」編以来となるが、実は『頭文字D』には魅力的なオヤジキャラクターがキラ星のごとく登場している。文太然り、パープルシャドウの城島俊也然り、同じく星野好造然りである。が、この久保英次がこれらのキャラと異なるのは、作中で、いっさいクルマを運転しないことだ。

■Vol.611「もうひとりの天然(後編)を1話丸ごと読む!

 では、いったいどういった形で登場したのか。それは、プロジェクトDにとって最終バトルとなった神奈川エリア第4戦の相手、サイドワインダーの「雇われ参謀」役としてである。

 プロジェクトDの高橋涼介と同様、チームをサポートする司令塔として久保英次が置かれたことで、サイドワインダーのラスボス感が高められるのと同時に、他のチームとは違ったスケールで描かれていることがわかる。

 スタイルがまたなんとも味わい深い。見事な中年太りなのである。服装は主にポロシャツをズボンにイン。頭は7:3、いや9:1くらいで分けられており、これがツーブロックであれば、今なら最先端だ。ルックスのいいキャラクターばかりが目立つ『頭文字D』だが、この久保はたとえメタボオヤジであっても、城島や星野などはひと味違ったカリスマ性が感じられる。

 その魅力の一端は彼の頭脳にある。得意なことはデータ収集で、車両ごとの特性を見抜き、対策を考える。これまで登場したオヤジキャラたちと比べて、あきらかに異能だ。現在はショップの社長を務めているが、関西弁なので基盤は関西方面なのかもしれない。レース業界にも足を突っ込んでいたようで、「長いことこの業界にいる」と話す。

 なお、サイドワインダーの北条豪からは、「ドライバーをコンピューター制御のサイボーグに作り替えることこそ……あんたのかつての仕事だったんだろ」と言われている。

■雇われ参謀が峠に持ち込んだレースの理論

 初登場シーンは、プロジェクトDによる神奈川エリア第1戦の前、チーム246の練習走行を視察しに来た時である。

 この時すでにサイドワインダーのエース、北条豪と行動をともにしており、他の神奈川勢に対して、データの収集班を編成し、相手の戦力を裸にする旨を伝え、そして「敵を知り、おのれを知れば、百戦危うからず……今どきのレースは情報とデータがすベてですわ……」と発言している。なお、不敵な笑みはこの時から変わらない。

 神奈川エリア第2戦、第3戦の合間にも、北条豪との会話シーンで登場し、クルマと峠をよく知る者として、神奈川エリア各バトルの予想や戦評を重ねている。狂言回しとしても、解説者としても、読者にとってはありがたい存在だが、北条豪とはまるで恋人のようにいつも一緒にいるのが気にかかる(笑)。

 そしていよいよ、サイドワインダー対プロジェクトDのバトルが始まる。

 ここまで拓海のハチロクに関しては、「あまりにも未知数ですねん」「ずいぶんうさんくさいクルマに仕上がってるみたいやなァ……」「独特の世界観をもっとる奴ですわ……」などと発言し、そこに対してダウンヒルでは独自の感性で走る乾信司を起用。久保が真価を発揮するのは、事実上、ヒルクライムの北条豪と高橋啓介とのバトルであった。

 ここまで久保は「モータースポーツっちゅうのはみもふたもなく物理ですワ……」と言い放ち、レースの理論とデータとを積み重ねてきた。高橋啓介のRX-7の特性やポテンシャルを完全に見抜き、北条豪のNSXに対策を打ち立てて徹底的にセッティングを施したのだ。その結果、バトル前に、「フルコースで15秒のアドバンテージを作りました」と北条豪に豪語するほどの自信を打ち立てていた。

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