味のある名参謀オヤジ!!『頭文字D』人物列伝15【久保英次編】

■雇われ参謀が峠に持ち込んだレースの理論

 初登場シーンは、プロジェクトDによる神奈川エリア第1戦の前、チーム246の練習走行を視察しに来た時である。

 この時すでにサイドワインダーのエース、北条豪と行動をともにしており、他の神奈川勢に対して、データの収集班を編成し、相手の戦力を裸にする旨を伝え、そして「敵を知り、おのれを知れば、百戦危うからず……今どきのレースは情報とデータがすベてですわ……」と発言している。なお、不敵な笑みはこの時から変わらない。

 神奈川エリア第2戦、第3戦の合間にも、北条豪との会話シーンで登場し、クルマと峠をよく知る者として、神奈川エリア各バトルの予想や戦評を重ねている。狂言回しとしても、解説者としても、読者にとってはありがたい存在だが、北条豪とはまるで恋人のようにいつも一緒にいるのが気にかかる(笑)。

 そしていよいよ、サイドワインダー対プロジェクトDのバトルが始まる。

 ここまで拓海のハチロクに関しては、「あまりにも未知数ですねん」「ずいぶんうさんくさいクルマに仕上がってるみたいやなァ……」「独特の世界観をもっとる奴ですわ……」などと発言し、そこに対してダウンヒルでは独自の感性で走る乾信司を起用。久保が真価を発揮するのは、事実上、ヒルクライムの北条豪と高橋啓介とのバトルであった。

 ここまで久保は「モータースポーツっちゅうのはみもふたもなく物理ですワ……」と言い放ち、レースの理論とデータとを積み重ねてきた。高橋啓介のRX-7の特性やポテンシャルを完全に見抜き、北条豪のNSXに対策を打ち立てて徹底的にセッティングを施したのだ。その結果、バトル前に、「フルコースで15秒のアドバンテージを作りました」と北条豪に豪語するほどの自信を打ち立てていた。

■バトル前後の発言の味わい深さ

 しかし最終的には、高橋啓介の実力を掴みきれておらず、そのデータを超えた走りに圧倒されることになった。

 1本目で先行したNSXはRX-7をブッちぎれない。さらに2本目では、限界を超えてまでRX-7を追ったNSXがスピンを喫することになる。久保の組み立てた作戦は、残念ながら機能しなかったのである。

■Vol.611「もうひとりの天然(後編)を1話丸ごと読む!

 バトル後、「ちょっとしたカルチャーショックやで……すごいもんやな人間ちゅうのは……」と人間味のある発言をする久保。それだけ啓介の走りがすごかったという意味でもあるが、もはや人間性が凝り固まっているであろう1人の中年に、意外と言ってもいいほどのドラスティックな変化を起こしたこのバトルの凄さ、豊かさには感動すら覚える。久保の発言にも、走り屋愛が表現されている。

 なお、バトル前に「勝つと負けるではボーナス報酬が大きくちがうのでね……」と久保は言っていたが、果たして北条豪は彼にいくら支払ったのだろうか(笑)。

 しかし、久保にはこれからもサイドワインダーや北条豪らと手を取り合っていってほしい。いつかその後の世界観を覗き見してみたいキャラクターなのである。

■1話丸ごと掲載/Vol.611「もうひとりの天然(後編)」

■掲載巻と最新刊情報

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