【バトル考察】
セリカGT-FOURとハチロクの2台がすれ違い、ドライバー同士の目が合った瞬間からバトルは始まる。助手席に乗っていたのがなつきだとすぐにわかった拓海は、レーサーばりのするどいサイドターンをかまして、瞬時にセリカGT-FORUを追いかける形をとった。
一方、御木のほうも拓海を認識しており、かつて自分を殴った後輩のことを苦々しく思うと同時に、その存在に脅威を感じていた。ただ、御木もどうやらそこそこクルマに詳しかったらしく(当時の地方在住の若者なら当然とも言えるが……)、拓海の乗ってきたクルマが(車名は忘れていたが)FRであることを知り、安堵している。
なぜなら、「オレはFRがどんなに雪に弱いかよおく知ってんだ…!!」「残念だったな。あんなクルマじゃ、このクルマについて来るのはムリだ。なんたってこっちあ…4WDだからな」と、その理由をなつきに得意げに語る御木。彼の発言を証明するかのように「ホアシャア」と轟音を立てながら、セリカGT-FOURは加速を強めた!
それもそのはず、セリカGT-FOURといえば、90年代にトヨタがWRC参戦のためのホモロゲーションモデルとして発売したセリカのハイパフォーマンスモデルである。255馬力を発揮する2.0L直4ターボエンジンに、ミスファイアリングシステムやスーパーストラットサスペンション、大型リアスポイラーを含む専用エアロパーツまで装着したフルタイム4WD車に、約10年前のモデルであるハチロクが雪道でかなうはずがない。
多少なりともクルマを知っていれば、誰もがそう思うはずである。御木の強気も決して間違ってはいないのだが、今度ばかりは相手が悪かった。群馬最強のダウンヒラーは雪上で不利と言われたFR車に乗り、華麗なドリフトを決めながら、あっという間に最強の4WD車に追いついてきたのである。
「ありえねえ!! 4WDが(雪道で)FRに追いつかれるなんて!!」(御木)。たしかにこの御木の意見は間違っていない。しかし拓海は雪が降っていることなど気にしない。「キンコン」と警告音が聞こえる車内で、クールフェイスのまま雪のなかを駆け降りていく。そう、拓海はもう何年も前から、雨が降ろうと雪が降ろうと、配達のために走り続けてきたのだ。
「ちっくしょお、4WDのすごさを見せるのはこれからだぜ!!」と御木が叫んだのも束の間、テールトゥノーズでハチロクにピタリと付かれたセリカGT-FOUR。御木が「これならどーだあっ!?」と思い切ってステアリングを切ったが最後、オーバースピードのため車体は曲がらず、セリカGT-FOURはガードレールに衝突してしまう。
そのままハーフスピンを喫するセリカGT-FOURに衝突するかと思われたハチロクだったが、ここで拓海は「ふう」とため息をつきながら、いとも簡単にセリカGT-FOURをかわしてしまう。このあたりの余裕は、なんだか父・文太を感じさせるものがある。
そして停車後、セリカを見て「前がへこんだくらいで…あの感じだとたいしてダメージないだろうな…」と推察する、クールで冷静な拓海。助手席から逃げ出してきたなつきを隣に乗せると、うなだれる御木を放っておいたまま(笑)、山を降っていくのであった。
あまりにもあっけないといえばあっけない。しかし、雪中のバトルというのはこの作品では珍しく、また、勧善懲悪エピソードでもある。さらにいえば、このエピソードは拓海の人生にとってひとつのターニングポイントでもあった。この夜、好きな人に「おまえのこと好きだから…!!」と伝え、2人の仲は急激に進展していくことになる、気持ちよくも甘酸っぱいバトルなのだ。
■掲載巻と最新刊情報
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