『頭文字D』を彩った伝説の名車列伝04 トヨタ MR2 編

 連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。

 同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。今回紹介するのは、トヨタ MR2(2代目=SW20型)だ。峠の下りでは有利なはずのミッドシップレイアウトでありながら、主人公のハチロクに敗北を喫する同車。そこに至ったプロセスと苦悩を読み取っていこう。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

■第1回 佐藤真子の愛車「日産 シルエイティ」編
■第2回 中里毅の愛車「日産 R32型スカイラインGT-R」編
■第3回 須藤京一の愛車「三菱 ランサーエボリューションIII」編


■若者たちの手が届くMR車として

トヨタ 2代目MR2(1989-1999)/全長4170×全幅1695×全高1240mm、エンジン:2L直4DOHCターボ(225ps/31.0kgm)、価格:263万8000円(GT)

 現在、日本車で「MR」、つまり「ミッドシップ」のクルマと聞けば、多くの人が頭に浮かべるのはホンダ NSXかもしれない。しかし、1980~1990年代には、若者たちの手が届くクラスにミッドシップマシンが、たしかに存在した。

【画像ギャラリー】頭文字Dの名車を実車で見る! トヨタ MR2(SW20)

 ミッドシップに2シーター、リトラクタブルライト、そしてスポーティさを際立たせるリアウイングと、ディテールだけ並べていくと、まるでスーパーカーのようないでたちを想像させる。

 しかし、1984年に初代モデル、1989年に2代目モデルが発売された、このトヨタ MR2の実際の姿は、コンパクトな全長のライトウェイトスポーツ。どちらかといえば「美しさに見惚れる」という方向性ではなく、(いい意味で)ホビー的な薫りがプンプンするモデルだった。

こちらは海外仕様のシルエット。今にしてみれば小型なサイズのミドシップスポーツで、トヨタ車では異色のじゃじゃ馬だった

 つい乗ってみたくなる手軽さは、同モデルのようなスポーツカーのチャームポイントであり、販売的にも強みと言える。ただ、実際に手を出してみた多くのオーナーが、その扱いづらさに手を焼いた。

 ミッドシップという駆動方式の特性上、限界領域でリアが滑った時の挙動はとにかくシビアだったが、このじゃじゃ馬のような扱いづらさも、後のMR2の評価を高くした武勇伝となっている。

■カイのセルフコントロールとアンコントローラブル

 バトルの舞台となったのは、栃木県のいろは坂。上りは上り路線のみ、下りは下り路線のみ、ヘアピンは高低差があるという独特な構成の峠道だ。そして、実際のバトルではこの舞台装置が巧みに使われることになる。

 作中でも「えげつないライン」とサブタイトルにまで使用された、道路脇の茂みを突っ切るショートカット走法。なんと、このバトルでは、世にも珍しい“宙を飛ぶMR2”が見られるのだ。

 実はバトルの前から、MR2を駆る小柏カイは、父親に「インベタのさらに内側のライン」を狙うようアドバイスを受けている。これこそ、8歳でカートを始めて、16歳からは毎日オートバイでいろは坂を走ってきたという、硬軟両面の経験を併せ持つカイだからこそできる、“地元走り”である。

 前述のとおりMR2はピーキーな特性を持っているが、カート出身のカイにとって、これは充分操れる範囲。左足ブレーキまで駆使したクレバーでパワフルな走りを、前後重量配分に優れ、リアタイヤにトラクションをかけやすいMR2を操ることで自由自在に演出した。しかし、そんなMR2に黒星を付けたのは、なんと“枯葉”であった。

 最終区間、先行するMR2に対し、土壇場で改良版ミゾ落としをやってのけたハチロク。トンネルストレートで加速は互角と思いきや、超高回転型エンジンの力でハチロクが並びかける。2台はピタリと車体を並べながらフル加速状態で橋へ進入した。

 そして、橋の出口はなんとジャンピングスポット! 滅多に見ることがない車体の裏側が少し見えるアングルで、読んでいるこちらも息が止まる。そして、着地時に枯葉の山を踏み、MR2はスピンを喫するのであった。

■「諸刃の剣」が及ぼした影響

 強引ながらも見入ってしまうショットが満載されているこのバトル。特にラストの橋区間のシークエンスには、結果がわかっていても引き込まれていってしまう。ミッドシップの優位点がしっかりとバトルの展開に活かされ、MR2というクルマの特性が「諸刃の剣」であるという、オリジナルの世界観もしっかり取り入れられている。

 しかし、このような名車が必ずしも売れるかといえば、そうではない。当時、MR2に燃えるような恋をした人が多数いたのも事実だが、2シーターという非日常的な側面も持っているMR2は、販売的には成功しなかった。

 その後、MR2は、MR-Sというロマンシチズム溢れるオープンカーにリブートされる。なぜそうなってしまったのかはわからないが、純なスポーツカーファンたちの気持ちを萎えさせた(もちろんMR-Sもいいクルマには違いないが)。

 カーマニアなら誰にでも憧れのクルマというものが存在し、いつか追体験したいと思っていることだろう。「ミッドシップに乗ってみたい」ユーザーたちによって、MR2の存在感は今も高められている。

 しかし、その走りの特性もあって、クラッシュなどで失われてしまった車両も多く、2021年現在、中古車市場にMR2はそれほど多く出回っていない。若い人にとっては、知っているけど見たことのないクルマの筆頭に上がるかもしれない。

「ミッドシップ」というパワーワードに加えて、このどこか退廃的な世界観もMR2の魅力のひとつとなっている。

■1話丸ごと掲載(Vol.168「えげつないライン」)

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