1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。
当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。
今回取り上げるのは、高橋涼介にとって最後の公道バトルの相手となった北条凛。彼のエピソードは、いつものとは異なる趣のバトルとともに、圧倒的なスケールで描かれている。
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
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■北条凛はどんな人物?
これでもかとばかりに傷ついた男である。
北条凛は、病院院長の息子で、自身も医者を目指していたが、現在は挫折。R32型スカイラインGT-Rで箱根を彷徨い、バトル相手にぶつけてクラッシュさせ、“死神”と呼ばれている。とことん不穏で、とことんヤケクソな人生を送っている、残念な情緒不安定野郎だ。
では、彼の身にいったいどんなトラウマがあったのかといえば、3年前まで恋人であった香織が自死している。彼女は婚約までしていた北条凛を裏切って高橋涼介を選んだのだが、そのことを親から咎められて、結果的に死を選ぶことになった。たしかに男の立場からすれば、これは想像を絶する悪夢だし、病み案件である。しかしその後の北条凛の答えのない彷徨い方は、まるで迷い子のようでもあった。
◆頭文字D Vol.580「宿命の対決再び」を1話丸ごと読む
ルックスからして不気味な雰囲気が漂っている。初登場時から目は半開きで、頬は痩せこけ、髪はだらしなく肩まで伸びきっている。くせ毛なのかパーマをあてているのかわからないが、好きな方向へクネクネとウェーブしまくっていてなんだか薄気味悪い。服装も上下ダーク系でまとめられていて孤独を感じさせる雰囲気があり、全体的に“死神”感を表現しているのが印象的だ。
そして、彼には弟がいる。神奈川の走り屋チーム「サイドワインダー」のエース北条豪だが、この弟は、兄のことをかなり疎ましく思っている。自身が代表を務めるチームの地元(箱根)で暴挙を働いているということもあるが、何よりかつてリスペクトしていた兄の堕落した姿に、弟の心はかき乱されている。ここで浮かび上がってくるのは、歪にこじれた兄弟関係なのである。