圧巻のバトルで描かれたGT-Rを駆る“死神”『頭文字D』人物列伝14【北条凛編】


 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

 当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回取り上げるのは、高橋涼介にとって最後の公道バトルの相手となった北条凛。彼のエピソードは、いつものとは異なる趣のバトルとともに、圧倒的なスケールで描かれている。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

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■北条凛はどんな人物?

 これでもかとばかりに傷ついた男である。

 北条凛は、病院院長の息子で、自身も医者を目指していたが、現在は挫折。R32型スカイラインGT-Rで箱根を彷徨い、バトル相手にぶつけてクラッシュさせ、“死神”と呼ばれている。とことん不穏で、とことんヤケクソな人生を送っている、残念な情緒不安定野郎だ。

 では、彼の身にいったいどんなトラウマがあったのかといえば、3年前まで恋人であった香織が自死している。彼女は婚約までしていた北条凛を裏切って高橋涼介を選んだのだが、そのことを親から咎められて、結果的に死を選ぶことになった。たしかに男の立場からすれば、これは想像を絶する悪夢だし、病み案件である。しかしその後の北条凛の答えのない彷徨い方は、まるで迷い子のようでもあった。

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 ルックスからして不気味な雰囲気が漂っている。初登場時から目は半開きで、頬は痩せこけ、髪はだらしなく肩まで伸びきっている。くせ毛なのかパーマをあてているのかわからないが、好きな方向へクネクネとウェーブしまくっていてなんだか薄気味悪い。服装も上下ダーク系でまとめられていて孤独を感じさせる雰囲気があり、全体的に“死神”感を表現しているのが印象的だ。

 そして、彼には弟がいる。神奈川の走り屋チーム「サイドワインダー」のエース北条豪だが、この弟は、兄のことをかなり疎ましく思っている。自身が代表を務めるチームの地元(箱根)で暴挙を働いているということもあるが、何よりかつてリスペクトしていた兄の堕落した姿に、弟の心はかき乱されている。ここで浮かび上がってくるのは、歪にこじれた兄弟関係なのである。

■殺るか逃げ切るか、まさに死闘!

 北条凛がこのような人物に成り果てた要因でもある香織の命日。高橋涼介のRX-7(FC3S型)が箱根ターンパイクに姿を現すと、ひと言ふた言会話をかわし、すぐにバトルが始まる。

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 ただ、一方(高橋涼介)はバトルで過去の清算をしようとしているが、もう一方(北条凛)は相手にクルマをブツけようとしている。なんとも壮絶としか言いようがないバトルである。

 序盤から虎視眈々と涼介のRX-7を狙う北条凛。当初はテンション高めで、「香織……近くに来て見ているんだろう(中略)オレは今夜、この場所で死んでも悔いはない」とまで言い切り、実際にRX-7に車体を当てていた。しかし、徐々に涼介の才能が発揮され、本気で当てにいくが、天才的なドライビングテクニックでかわされることになる。

 読んでいるこちらとしても、大切なクルマをわざとブツけてクラッシュさせようだなんて本当にイヤなやつだと北条凛を憎しみこそするが、嫌らしいながらも見事な走りを見せる北条凛(とスカイラインGT-R)の姿に、このバトル展開の面白さに、そして抜群な画作りに、つい引き込まれてしまう。

 追い込めそうで追い込みきれず、心のなかでは涼介を責める言葉を発し続ける北条凛。妄想、不安、恐怖……次第に彼の心の中に不穏な空気が漂い始める。

 そして、徐々にGT-Rのブレーキにも異変が! 一度でもターンパイクを走ったことのある人であれば、この下り路線における2台の攻防とGT-Rのトラブルに、ひやりとした冷気を覚えたに違いない。

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