イニDの象徴! 高橋兄弟の関係性『頭文字D』人物列伝22【高橋啓介 後編】


 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

 当企画は、同作において重要な役割を果たしたさまざまなキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回も、前回に引き続き、藤原拓海と人気を二分する高橋兄弟の弟、高橋啓介を取り上げる。本人の性格や走りの資質に加え、兄の涼介との関係性や絆、そして拓海からの評価などをまとめた。

文/安藤修也 マンガ/しげの秀一

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■兄の高橋涼介との関係性は?

 プロジェクトDのダブルエースのひとりにしてヒルクライム担当。物語後半になってもツンツンしたヘアスタイルは変わらないが、ただ全体的に伸びて、毛先に動きを取り入れたスタイリングに変化している。

 主人公である拓海のルックスがどこか子どもっぽい印象であるのに対し、啓介のルックスは極めて硬派。目つきの鋭さなど、全体的に鋭角的なアプローチで描かれており、マンガとしては王道的な、コンビ同士の面白いマッチングでもある。

 兄はプロジェクトDのリーダーでもある高橋涼介だが、その関係は年の近い兄弟というより、師弟のような雰囲気を感じさせる。年の割に哲学性を帯びたことを言う涼介のことを、啓介は全面的に師事している。

 一方で、涼介は啓介のスタンスをこう分析している。「プロジェクトDでは2種類の異なるアプローチで公道最速をめざしている。藤原は峠に特化したスペシャリストで、ある意味、変則派。啓介はモータースポーツの技術を峠に応用していくスタイル」なのだと。

 また、涼介の評する啓介の性格は、「啓介のすごいところは、やると決めたらトコトンまで妥協せずにやり抜くところ」だという。つまり、優れた才能を備えている啓介だが、そこに努力を乗せることができるのである。

 事実、啓介はプロジェクトDの遠征の日以外は毎日走り込みを続けており、FD(RX-7)が故障した際は、兄のFCを借りてまで走っている。具体的なものが見えずとも、ただ純粋に兄の言葉を信じ、毎日走り続ける弟。なんとも素晴らしい構図ではないか。

 ちなみに、同僚でもありライバルでもある、拓海の啓介評はこうなっている。「プラクティスの時、ひんぱんにすれちがうじゃないですか……。そういう時にドキッとするんですよ。このヒトと勝負するのはやだなァ……味方でよかったなァって……」この発言だけでも、充分に啓介の非凡さをうかがうことができるだろう。

■プロのレーサーに対して思うところあり

 そんな啓介が、物語後半のあるバトルで、プロジェクトD内での弟分、ケンタにこう言い放っている。「このバトル……オレにとっては特別な意味があるんだ」と。

 舞台は、神奈川遠征の2戦目、レーシングチームカタギリ ストリートバージョン戦。ここまで戦闘力の高い4WD車を相手に連戦連勝してきた啓介が対戦する相手は、80型スープラに乗る皆川。職業はプロドライバーである。

 発言の真意は、相手がプロのレーサーであり、プロ相手に自分の技術がどこまで通用するかを試したいという気持ちがあったためだ。RX-7とスープラというFR同士の勝負をわけるのはタイヤマネージメント。皆川いわく、「本当のタイヤマネージメントは……レースというフィールドに身を置いた者でなきゃ絶対に身につかない」ということで、超一流の正統派レーサーを前に、啓介がどう対抗するか、読んでいるこちらとしても期待が高まるバトルであった。

 だがここで、実は啓介が過去に秘密の特訓をしていたことが初めて明かされる。それは、効率よくタイヤを使うための特訓であり、兄の涼介から、「1日5本往復、上りと下りの10本のタイムをなるべく誤差なく設定タイムに揃えよ」というものであった。実際に峠を走った経験がある人なら、それがどれだけ難しく、途方もないものかわかるに違いない。

 結果として啓介は、峠に特化したタイヤマネージメントと時計のセンスを高レベルで身につけることになる。つまりペダルの踏み加減を細かくわけてコントロールすることで、それは精一杯速く走ることよりずっと難しいこと。啓介自身は「テンションを上げずに理性でアクセルをふむと言うこと」とも捉えている。

 涼介はこの秘密特訓での兄弟のやりとりを思い出しながら、「オレが期待していたよりも早いペースで啓介は進歩している」と語っているが、こういった体温を感じさせるパートがバトル中に挿入されることは、『頭文字D』のハートウォーミングな一面でもあり、ストーリーの深さを感じさせる部分でもある。

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