■人間性と運転技術が見て取れるエピソード
涼介の年齢がまだ20歳そこそこでありながら、このような“伝説”を、立ち上げから偉業を完遂するまで指揮を取ったことには感心させられるが、大局的な目線を持っていたことにも驚かされる。
しかし涼介本人にはメジャー志向がなく、自身が抜きん出た実力のドライバーであったにも関わらず、その一番目立つポジションに執着がなく、あっさり啓介と拓海らに譲り、2人を支援するポジションに回る事になる。
そして涼介のサポートを受けた啓介と拓海は、バトルのたびに高揚感と不思議な安心感に包まれて最高のパフォーマンスを発揮することになる。さらに、彼らのような優秀な人材が集まり最後までついてきたのは、涼介の天性のリーダーたる素質があったからに他ならない。元ライバルという立ち位置だった拓海と啓介の間には、最終的に友情まで生まれることになる。
高橋涼介の人間的な魅力を端的に感じ取れる非常に短い作品がある。ヤングマガジンGT増刊に掲載された『ウエストゲート2』というこの話は、涼介の移動という部分に限定して見てみれば、山頂からから麓までただ下るだけだ。しかしこのエピソードには、多くの“高橋涼介”が詰まっている。
まず冒頭での「プロジェクトD」渉外担当の上祐との会話からは、自分が多忙で睡眠時間が取れていないことを差し置いて仲間達のことを気遣う涼介の優しさが読み取れる。
さらに、上祐の容態が急変すると、すぐに医学的な知見を活かしてどんな行動を取るべきか判断する冷静さと判断力。さらに、彼を助手席に乗せてから山を猛スピードで下っていく際の運転技術を見せつけられれば、作品を読んでいる多くの若者が心惹かれてしまうに違いない。
白いFC(RX-7)の走りを期待していた読者にとっては、まさに「待ってました!」の瞬間だ。「プロジェクトD」の活動が始まって以降、彼は司令塔に徹していたため、久々のFCの登場で気持ちの昂りを抑えられないに違いない。
このダウンヒル走行は普段のバトルとは違ってハデさはそれほどないが、たまたま峠にいたギャラリーや、あっという間に抜かれるポルシェ乗り、そして助手席の上祐らの客観的な語りで、涼介が不世出のドライバーであることを改めて知らせてくれる。
■見るものすべてを夢中にさせる男
作中では、主人公である藤原拓海はもちろん、高橋啓介にも恋愛パートがあった。では、プロジェクトに熱心に打ち込む涼介はどうなのかといえば、やはり彼にもそういったエピソードが描かれていた。
しかし、彼の相手だけがすでに亡き人であるというのは、熱量の多いファンを持つ主人公的キャラ3名のなかにおいては、やや重く、特異な設定であったと言える。
バトルマンガでの恋愛パートというと、ついつい単調で箸休め的なものになりがちだが、亡くなった相手を想い、当時の恋敵とバトルする(そしてその相手も死にかける)という仕掛けを用意することで、涙の演出や緊張感を創出してストーリーに大きな起伏を与えている。
さらにこのバトルは、涼介のドライバー人生に終止符が打たれることになる重要なものとなる。死んだ彼女を深く想う気持ちに抗わず、あるがままの感情に身を委ねたバトルを終えたことで、ついに重い鎧を脱ぎ捨て、身軽な状態で「プロジェクトD」のラストバトルに挑むことになるのだ。
いつも深遠な口調で仲間に語りかけ、圧倒的な真摯さと包容力を備えている。その実、死んでいった恋人への泥臭いほどの想いを抱きながら、いつも色気と影とを併せ持った瞳をたたえている。ルックスは常にスタイリッシュで、瑞々しさを感じさせる。
誰もが羨むような素敵過ぎる男・高橋涼介が、高橋啓介と藤原拓海の表舞台での活躍を紡ぎ出した。涼介が奏でた物語は、他のどんなクルママンガより見事なドラマを醸成したのである。
■掲載巻と最新刊情報
【画像ギャラリー】『頭文字D』人物列伝24【高橋涼介 後編】(6枚)画像ギャラリー