伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ次世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得しており、13巻発売時点の現在で、ついに単行本累計発行部数320万部を突破した。
同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。第6回となる今回は、主人公・片桐夏向が駆るトヨタ 86をフィーチャー。はたしてこのクルマは、AE86の何を受け継ぎ、何を後世に残そうとしているのか?
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
■冬の時代を経て誕生した正統派スポーツクーペ
『頭文字D』の熱心な読者であれば、トヨタ 86のことはよく知っているはずである。藤原拓海とAE86型スプリンタートレノの活躍、そしてそれを支えた読者の熱狂が誕生させたと言っても過言ではないモデルで、近年販売された国産スポーツカーのなかでもその存在感は際立っている。
日本において2000年代はスポーツカー冬の時代であった。そもそもクーペモデルに対するニーズが減ったことに加えて、ハイパワー車が環境問題対策の影響を受けるなど、1990年代まで人気を博してきたスポーツカーは、この時代にことごとく姿を消していくことになる。スプリンタートレノに関しても同様で、AE86型以後3代続いたものの、2000年にトヨタのラインナップから消滅してしまった。
クルマ好きにとって実に寂しいこのような状況に際して、トヨタが2012年に打ち出したのが、新時代のライトウェイトスポーツカー「トヨタ 86」だ。同社が初めてスバルと共同開発した86は(スバル側では「BRZ」として発売)、2+2シートの2ドアクーペで、コントローラブルなFR駆動を採用し、チューニングベースとしても優れたモデルであった。
若者を夢中にさせるほど、手に入れやすい価格設定とはならなかったが、それでも長らく販売されて2代目へモデルチェンジを果たしている。また、同世代の国産スポーツカーと比べても特別に性能が高かったということはないが、最も価値のあるスポーツカーだったと言いきってしまっても問題ないだろう。