■操るのはドイツ人の最強ドライバー
この718モデル以降、水平対向4気筒ターボエンジンが搭載されることになり、よりシャープでアグレッシブな走りを手中にしている。2019年には、水平対向6気筒エンジンも復活しているが、クルマにとって最も重いアイテムでもあるエンジンを車体中央に低重心で搭載するレイアウトによって、素晴らしくコントローラブルなモデルに仕上がっている。
『MFゴースト』の作中で、この718ケイマンを操るのは20歳のドイツ人、ミハイル・ベッケンバウアーだ。彼はカーナンバー12をつけているが(つまり前年度ランキングが12位ということ)、それは前年のシーズン途中からMFGに参戦したため。新シーズンの第1戦「小田原パイクスピーク」では見事にポール・トゥ・ウイン、第2戦「芦ノ湖GT」ではケイマンSからケイマンGTSへと乗り換え、やはりポールポジションから優勝を果たしている。
そして、このベッケンバウアーの718ケイマンが真価を発揮したのが、第3戦「ザ・ペニンシェラ真鶴」である。開幕当初から戦闘力の高さを示し、無敵と思われた718ケイマンとベッケンバウアーだったが、初戦から印象に残る走りを披露するトヨタ 86(片桐夏向)と第2戦で718ケイマンに迫ったアルピーヌ A110(沢渡光輝)が、予選で続けざまにコースレコードを叩き出し、最後に走行してポールを獲得した718ケイマンとともに、伝説のデモタイムを破った。
決勝レースがスタートすると、718ケイマンと2位につけるアルピーヌA110はランデブー走行を始め、第2戦同様、一騎打ちの様相となったかに思われた。
しかし、ペースを抑え気味の718ケイマンと後方に沈んでいくトヨタ 86の様子を気にしていたA110は、ファイナルラップでいよいよフェラーリ488GTBに追いつかれてしまう。長いトンネルエリアの「ミッドナイトストレート」では、そのハイパワーを活かしたフェラーリに抜きさられ、トップの座を譲ることになる。
■時代に沿ったモダンな進化
その後にエキサイティングな展開が待っていた。狭くツイスティな「半島区間」エリアに入ると、軽量でコントローラブルな2台にとって有利な展開となり、先にアルピーヌA110が巧みなコーナリングで先頭に躍り出ると、それに続くように718ケイマンもボディをぶつけながらギリギリのドッグファイトでフェラーリの前へ出たのである。
ここで調子を取り戻したトヨタ 86もフェラーリを交わして先頭の2台に迫ってくる。一旦は86が藤原拓海直伝の「ミゾ落とし」を披露して718ケイマンをかわしたが、登り区間に入ると718ケイマンが仕掛ける! 横並びになった718と86は、なんと3つのコーナーを並走。4つ目のコーナーでノーズを前に突き出した718がライトウェイト対決を制する。
この隙に20mほど差をつけたトップのアルピーヌだったが、ここでベッケンバウアーが「本気のスプリント」をさらけ出す。「主屋コーナー」と呼ばれる高速コーナーでフルブレーキング、アウトから並びかけて首位を奪還。そのままフィニッシュして、今季2勝目を納めることとなった。
アルピーヌと86を追い抜き、引き離す、このスリリングな攻防のなかにあっても、718ケイマンはどこか静かな雰囲気を漂わせている。これが精緻なスタイリングのせいなのか、ベッケンバウアーの表情のせいなのかわからないが、718ケイマンは読者の心すらコントロールしてしまうようだ。
911ほど強烈な個性はない。しかし、ファン・トゥ・ドライブで毎日でも乗りたくなってしまうクルマとは、こういうものなのではないだろうか。
■掲載巻と最新刊情報
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