連載期間18年の間にコミックス全48巻を刊行し、一大ブームを巻き起こしただけでなく、現在も読まれ、そしてさまざまな角度から検証され続けて、ファン層を拡大しつつある怪物マンガ『頭文字D』。
同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。今回は、自動車業界において花形である「FR」という駆動方式を持つ4ドアセダン、アルテッツァを取り上げる。作中ではハチロクに惨敗を喫したものの、FRセダン復権の一翼を担うべく生まれた同車の魅力を振り返ろう。
文/安藤修也 マンガ/しげの秀一
■第1回 佐藤真子の愛車「日産 シルエイティ」編
■第2回 中里毅の愛車「日産 R32型スカイラインGT-R」編
■第3回 須藤京一の愛車「三菱 ランサーエボリューションIII」編
■第4回 小柏カイの愛車「トヨタ MR2(SW20)」編
■第5回 二宮大輝の愛車「ホンダ シビックタイプR編」
■第6回 高橋啓介の愛車「マツダ RX-7(FD3S型)編」
■縦横無尽に走るFRセダンとして
2021年現在、クルマの駆動方式は多種多様に存在しているが、こと走りにおいては、どれが優れているとは一概に言い切ることはできない。後席が犠牲になるMRはともかく、4WDはスーパーカーでも主流になっているし、FFでもスポーティな走りを味わえるモデルは生まれているからだ。
しかしFRは、ハンドリングや前後重量バランスなどで、他の駆動方式では味わえない特筆すべき魅力を備えている。
【画像 ギャラリー】名車の実車を写真で見る! トヨタ アルテッツァ
FRの存在感が際立った時期がある。1990年代末、トヨタとホンダがFRの新型車をリリースするというニュースが囁かれたのだ。当時、筆者はベストカー編集部に在籍していたのだが、スペックやスタイルなどが判明するたびに、それはもう大騒ぎの毎日であった。
さておき、この両車は後のアルテッツァとS2000であったが、2シーターオープンというスペシャルな立ち位置のS2000はともかく、アルテッツァは登場前からFRセダンの再興という重責を担う存在として期待されていた。
そして実際に蓋を開けてみれば、FRとしての走りの魅力は健在であった。必ずしも圧倒的な加速力を持っていたわけではなく、馬力が突出しているわけでもない。しかし、前後ダブルウィッシュボーンを採用した足まわりは軽やかで、颯爽と走った。
峠道まで行かなくとも街中を走るだけで俊敏性が感じられ、セダンとは思えない動き出しのよさがあった。アルテッツァは、シンプルにFRという駆動方式を楽しめるモデルだったのである。