【バトル考察】
当然といえば当然のことだが、先行したのはGT-R。4WDのトラクションの良さを活かした形だが、それほど差はつかない。「ストレートでちぎったらもったいねえだろうが…オレはバトルがしたいんだよ!!」と余裕をみせる中里毅。後方の拓海も「GT-Rのドライバー…ちゃんと踏んでない…なァ…」とそれをわかっている達人である。
なおこの時、高橋涼介のRX-7(FC3S型)も2台にすこし遅れて並行するように側道からローリングスタートしている。助手席に弟の啓介を乗せて、2人でこのバトルを特等席から見学するという狙いであった。RX-7は後方からついていくだけだが、3台が絡むシーンというのはこの作品でも珍しく、後のFC3S型RX-7対R32型GT-R(についていくZ33型フェアレディZ)まで見られない。
4WD(GT-R)対FR(ハチロク)という宿命の構図となったこのバトルだが、第一コーナーでいきなり拓海が派手なドリフトをみせる。これを挑発と受けとった中里は「ふざけやがって、あんなオーバーアクションなカニ走りで」と、そのテクニックに驚くと同時に、奮起する。
一方、ハチロクの車内の様子が描写されると、速度警告灯が「キンココンキンコン」と鳴り響き、拓海の額には汗が見られている。コーナーでも外から見ればオーバーアクションだが、実は限界領域でコントロールしており、ガードレールすれすれか、あるいは若干接地するほどギリギリまで攻めていたのだ。
じりじりと2台の差は開いていくが、しかしそこにはコースの妙があった。高橋涼介も「前半は比較的ストレートも長めで勾配もゆるやかでハチロクには不利な条件が多い」と読んでいる。勾配がキツくなってくる後半こそダウンヒルスペシャリストの本領発揮の場だというのだ。
ここで拓海が、「違う…なんか違う…クルマの感じ」と、ハチロクのセッティング変更に気づく。足まわりがすこし引き締められたことで、「踏んでもクルマが乱れない…今までよりもワンテンポ早く踏める」とすぐにクルマの特性をつかむ。天才の天才たる所以である。
イン側の溝にタイヤを引っ掛ける拓海ならではの走法「ミゾ落とし」も披露しはじめ、走りのポテンシャルを一段上げたことで、前方を走る中里がプレッシャーを受け始める。後方でついていく高橋涼介もそれまでのように隣の啓介に話しかけることがなくなった。拓海のレベルアップは、涼介が本気にならないとついていけないほどだったのだ。
ヘアピンの連続が続き、立ち上がりはGT-Rが引き離し、突っ込みはハチロクが差を詰める。しかし、だんだんコーナーのつくりが高速になってくると、4輪ドリフトしてガードレールをかすめつつ走るハチロクがさらに寄せていく。無駄な減速をしないハチロクのドリフトが効いているのであった。
GT-Rとガードレールとの間隔は20~30センチ。一方、ハチロクはガードレールにほぼ接している。これこそ藤原拓海の真骨頂だ。そしてこのやり取りの間に、ついにGT-Rのタイヤが悲鳴を上げ始める。それまで中里毅が、「ABSを効かせつつ、こじるように」ステアリングを切ってきたため、フロントタイヤの応答性があやしくなってきたのだ。
秋名山の終盤にひかえる5連続ヘアピンは、高橋啓介のRX-7がハチロクに抜かれた場所。このバトルを見ていた中里もハチロクをインに飛び込ませないようブロックする。が、これに対し逆に外からパスしようと試みるハチロク。
プライドを傷つけられた中里が集中力をなくした刹那だった。一瞬アンダーを出したGT-Rのスキを逃さず、ハチロクはインに潜り込み、鼻先をGT-Rより前に突き出す。すかさず立ち上がり加速で勝負を挑んだGT-Rだったが、ついにここでタイヤが限界を迎える。ハーフスピンから右リアをガードレールにヒットして勝負あり。勝利した拓海は、なぜか無表情のまま帰途についたのであった(笑)。
R32型スカイラインGT-Rという当時の(そして今でも)最強マシンに乗る中里毅は、このクルマが最強すぎるがゆえに、より過激で強烈な加速と突っ込みに魅せられ、その強力な力を過信してしまった。彼がGT-Rに出会って一気に開けたものがあった反面、失ったものも大きかった。一方、拓海とハチロクは、RX-7に勝ち、このR32GT-Rとのバトルを経て、今後さらに覚醒していくのである。
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