【バトル考察】
とんでもないアクシデントを抱えた埼玉エリア最終戦、原因となったオイルはもちろん埼玉チームの罠である。どんな形にしても、勝てばクルマを仕上げたショップからそれなりの金をもらえるということで、最初からまともに相手をするつもりはなかったのだ。バトル開始前から戦いはすでに始まっており、プロジェクトDにはそういった悪意に対する準備がなかった。
RX-7の故障により、「バトルの一週間延期」を提案するプロジェクトDだったが、当然のごとく相手チームはそれに応じない。「スターティンググリッドにまにあわないクルマは負けって決まってんだよ」と、事情は一切考慮せず、啓介のバトル相手は、翌日夜の予定通りのスタートを告げて去ってしまう。そりゃそうだ!
間に合わないと分かっていても、夜通しチーム総出でRX-7の修復に手を費やすプロジェクトDの面々。そして翌日のバトル前、なんとか緊急修理が終わったRX-7だったが、啓介が試走してみると、サスペンションバランスの狂ったマシンはコーナリングに耐えきれずにスピンを喫してしまう。
アクシデントのせいとはいえ、自分を責める啓介。いつも強気な啓介だが、流石にこの時ばかりは涙まで見られる。しかし、コース中の停車エリアで佇んでいると、ロータリーサウンドが近づいてきた。姿を表したのは、啓介に思いを寄せるRX-7乗りの岩瀬恭子だった。「こんばんはー、今回も応援に来たよー」とあっけらかんと挨拶をする恭子に、啓介が急接近! 「たのみがあるんだ…!!」
啓介は、壊れてしまった愛車の代わりに恭子のRX-7をバトルで使わせてもらうことしたのだった。意中の人のお願いは拒めません(笑)から、オーナーである恭子本人はすんなり了承。プロジェクトDリーダーの涼介は、別のRX-7を借りる手配をしていたが、「同じぶっつけ本番なら少しでも啓介の負担が軽いほうがいい」と一度バトルをして限界領域での動きを見ている恭子のRX-7を選択した。
そして、バトルの1本目は、「むこうが慣れないクルマにとまどっているうちにいっきにつきはなす…」という狙いから、ランエボVが先行する形でスタート。乗り出すなり、そのクセのない仕上がりに感心すると同時に、すぐにフィットして完璧なコントロールをみせる啓介。これもFD(RX-7)使いのスペシャリストだからこそできる芸当である。
ランエボのオーナーはランエボに圧倒的な自信を持っていた。曰く「一般公道で世界一速いのはランエボ」だと。そしてその自信を裏打ちするのは、啓介が前日のアクシデント以来このコースを走り込んでいないということにあった。しかし、啓介のRX-7は走っても走ってもランエボから離れない。
その理由のひとつが、啓介が恭子の愛車を乗りこなすのに時間がかからなかったこと。もうひとつは、啓介の精神状態にあった。クラッシュして走れなくなり、絶望のどん底にあったところから、仲間たちの助けもあってスタートラインに立つことができたことで、啓介は純粋な走るよろこびを感じていた。その結果、普段以上の自制心と集中力を獲得していたのである。
そして恐ろしいまでに冷静だった啓介は、コースの先を読み、ターゲット攻略のプロセスを打ち立てる。立ち上がりで最高のパフォーマンスを発揮できるようにS字を抜けると、コース最長のストレートでRX-7のパフォーマンスを最大に発揮し、「高速機」ランエボVの横に並びかけた!
しかしその先は、道路工事のバリケードで道幅が狭くなっているエリア。加速しながらもにじりよる2台のマシン。そして工事箇所を通り抜けた瞬間、先にブレーキを踏んだのはランエボV……。勝敗は決まった。
バトル後、「ムチャなハバ寄せしやがって!」と突っかかってくる相手に対し、「状況がのみこめてねえんだな…」と答える啓介。工事箇所は数センチ単位でギリギリ2台が並んで抜けられたこと、そして、これまで自分はそういうレベルのバトルをしてきたのだと解説する。
格の違いを感じさせられた相手は、言葉をなくし、黙ってしまうのだった。なんとも痛快である! そして次の拓海のダウンヒルバトルの後にも、トラブルが勃発しかけたが、啓介のダークヒーロー感が堪能できるエピソードで収束する。正しいものが悪いものに踏みつけられるような社会の現実に対し、啓介が「なめんなよ!」と立ち向かう。彼が読者から支持を集める理由とも言えるバトルであった。
■掲載巻と最新刊情報
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