■扱いづらさと隣り合わせの戦闘力
作中で初登場したのは、MFG第1戦小田原パイクスピークの予選4日目。カーナンバーは「2」である。そう、搭乗するドライバーの赤羽海人(あかばかいと)は、前年ランキング2位の実力派ドライバーなのである。
ただこの男は、決勝レース中に「オレはフェラーリというブランドに特別な思い入れがあるわけじゃない」と豪語している。つまり、憧れや好意ではなく、マシンの能力を評価しているからこそフェラーリを選んだというわけである。至極、現代的な考えであり、正しいモダンフェラーリの評価とも言えよう。
この予選で、赤羽&488GTBはいまいちのり切れていない。「おかしいぜ、馬力(パワー)がこない!!」とピットへ伝える赤羽。対するピットクルーは無線で、テレメタリーが送ってくるデータに異常はないという。この場面で、MFGを観戦するギャラリーの発言からは「フェラーリはコンディション調整が難しいクルマ」という印象が伝えられている。過去のMFGでも、「予選は早いが決勝レースになると終盤に失速」というパターンが多かったという。
実際のところフェラーリというクルマは、昔から「ピーキーで扱いづらい」とされてきた。しかし、近代のフェラーリは、往々にしてコンピューターによる制御が入り、「安定しすぎてスピード感があまりない」知性の塊のようなクルマに仕上がっているともいわれている。2010年代中盤に登場した488GTBにおいては、官能性と洗練さを併せ持つ完全体のような存在に仕上がっていた。
■フェラーリ史上に残る秀作モデル
このMFG第1戦の予選では、コンディションが悪いながらも、最終的には10位でフィニッシュした488GTB。勝負となる本戦では、1週目から前方のBMW M3を抜き去り、その前にいたランボルギーニ ウラカンをも射程に捕らえると、小田原パイクスピーク名物「カマボコストレート」で、V8ターボの圧倒的な加速力を炸裂させてオーバーテイクに成功するなど、圧倒的な走力を見せつけた。
さらにその後も、ポルシェ 911GTS、BMW M6、AMG GTら、世界に名だたるスーパーカーたちをごぼう抜き。そして、前方で3位争いをしていた日産GT-RとアウティR8に追いつくと、時速300km/hオーバーからのフルブレーキングで3位に躍り出るのだが、各バトルシーンがフェラーリの美しいスタイリングを強調するかのように描写されている。ちなみに最終的には、第1戦で表彰台をゲットしている。
2019年、488GTBはフェラーリV8ミッドシップモデルの“現役”の座を「F8トリブート」に譲ることになるのだが、このF8トリブートも488GTB同様にターボエンジンを搭載することになった。
たしかに458イタリアがなければ、488GTBの存在はなかったかもしれない。しかし、このマシンはただの二番煎じではなかった。ターボエンジン搭載による強烈な加速力と情熱を内に秘めたクールなスタイリングは、現在のモダンスーパーカーへの道標となっている。
■掲載巻と最新刊情報
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